マチノコト

2017.3.14

これからの白川村を担う村民に、学びの場をつくる大学が開校−−白川郷ヒト大学レポート

岐阜県白川村。ここには世界遺産として名高い合掌造りの集落があり、年間160万人の観光客が訪れます。これだけ多くの観光客を受け入れている地域ですが、実は村の人口はわずか1700人ほど。小さなコミュニティだからこそ、多くの村民が結の精神を持ち、協力しながら歴史を紡いできた場所です。

そんな白川村に、2016年11月、「白川郷ヒト大学」が開校しました。白川郷ヒト大学は特定のキャンパスを持たないソーシャル大学の形式を取り、村民対象のプログラムを組んでいます。

開校後、最初の授業として、仕事と向き合う2泊3日のグループワークと、仕事をつくるという1泊2日の実践プログラムを実施しました。村にとっても初めての取り組みは、どのように行われたのでしょうか。
 

村に必要なものは教育。大学を始めようと思った柴原さんの思い

白川郷ヒト大学学長の柴原さん

柴原さん「僕は3年前に地域おこし協力隊として白川村に来たのですが、任期中に社団法人を立ち上げたり、自宅を改装してカフェをはじめたりしました。この村では用意されているものは少ないかもしれませんが、やってみれば自分でできることがたくさんあるんですよね。僕は、これからは地域を切り開いていく人たちを増やしていきたいと思っています。そういった人を育てられる場を持とうと思ったとき、大学という形式がピタッとはまったんです」

 
白川郷ヒト大学学長の柴原孝治さんは、地域おこし協力隊の一期生として、2013年に移住してきました。前職の企業では管理職まで勤め、そのときに人に何かを伝えたり教えることの重要性や、人を育てることの面白さに気づいたといいます。自分の能力でできることは限られていても、一緒にやってくれる人と出会えたり、できる人たちに委ねていくことで仕事をつくることができる、それを感じてもらうのが今回の目的です。

こうして、初回の授業では、参加者と一緒に仕事について考えるグループワークと、仕事をつくる実践を行うことが決まっていきました。
 

まちの魅力を語る大人を増やしたい、加藤幹泰さんの取り組み

 
この授業では、仕事を考える講師として大ナゴヤ大学学長の加藤幹泰さんを迎え、名古屋での取り組みについて話を伺いました。

大ナゴヤ大学は、白川郷ヒト大学と同じくキャンパスを持たず、地域の人々が先生となり生徒となるユニークな大学で、加藤さんはそこで二代目学長として活躍しています。加藤さんは、近年とある調査で名古屋が魅力のない町として認定されてしまったことが悔しく、名古屋のまちの魅力を語れる大人になりたいと志を持っています。
 

加藤さんの帰国後の活動の様子

加藤さん「阪神淡路大震災以降、日本では地域コミュニティの希薄さが露呈したと思います。自分の周りだと、マンション暮らしで、地元にずっと住んでいても同級生くらいしか知らないという人も多い。そういったまちとの繋がりが薄い状況をなんとかしたいと思っています。僕の中には、まちのことを語れる大人はかっこいい、という信念があるんですが、同じ気持ちを持っている方が、大ナゴヤ大学に参加してくれているように思います」

 
加藤さんは、海外留学時代に人と人をつなぐことに面白さを感じ、帰国後は人と企業をつなぐ仕事を選びました。ただ、働いていくにつれ、自分にしかできないマッチングとはなんなのか考えを深めていくようになったそうです。

退職し、高齢者と若者をつなぐ仕事をしたり、ニートと社会をつなぐ仕事をしたり、自分にできることを探していくなかで、大ナゴヤ大学と出会います。
 

「つなぐことの可能性を模索していたときに、大ナゴヤ大学と出会ったことが、自分ごととしての名古屋を意識し始めたきっかけです。それまでは、自分が住むまちのことはあまり知らなかったんです。僕たちのプログラムでは、みんなが先生であり生徒になれますが、おじいちゃんから子どもまで参加者は多様で、多くの繋がりが生まれています。『やりたいこと(好きなこと)×やれること×求められること』をまずは自分発信で考えることで、白川村ならではの仕事が生まれるのではないでしょうか」

仕事の骨格をつくるというワークショップの様子


 
今回の授業では、後半の2日間で実際に仕事をつくり稼ぐということを目標としています。売上目標は次回の打ち上げ会費である5,000円です。

講師からヒントをもらいながら、みんなで稼ぐための手段を考えていくと、「民宿をまわる、民謡の流し」といった村ならではのエンターテイメントの提案や、大学でツリーハウスの研究をしていた参加者と森林組合に勤める村民がタッグを組み、「積もった雪の上でツリーハウスをつくるワークショップ」といったユニークなアイデアが出てきました。
 
今回のグループワークで出てきたアイデアを実行にまで移し、「少額でも稼ぐ」という体験を通すことで、いよいよ仕事を自分ごととして考えることができそうです。開催日までに詰めなければいけないことをひとつずつクリアにして、後半の実践編に備えることになりました。
 

いよいよ仕事をつくる実践編。雪上ツリーハウスプロジェクト「木上家」が実現

 

雪に覆われた白川郷

年も明け、雪も降り積もった2月、白川郷ヒト大学の後半授業がスタート。前半で出たアイデアのうち、積雪を利用したツリーハウスづくりのプロジェクトが実際に動き出しました。このアイデアを実行したのは、村民の工藤伸也さん。白川村にあるトヨタ白川郷自然学校で宿泊施設フロント、レストランのホール業務を担当しています。
 
実践編では、2日間のワークショップ形式にし、参加費は1日7,000円、2日通しで10,000円と設定。数週間前から参加者を募りますが、思うように集客ができません。締切日、赤字が確定した状況でしたが、工藤さんの「とにかくやってみたい」という思いで、ツリーハウスづくりを実行することになりました。
 

ツリーハウスプロジェクトについて語る工藤さん

工藤さん「僕はもともと、自分で仕事を生み出すということに興味があったので参加を決めました。大学の頃に、自分の自慢できることをつくりたくてツリーハウスづくりを学びましたが、そのときは仕事にするというイメージはなく、ただ好きでつくっていただけだったんです。それが、白川郷ヒト大学でみんなと話したことで、改めて仕事としてやるにはどうすればいいか向き合うことができたと思います」

参加者全員で協力してつくる。中には初めて工具を持つ方も。

「やってみて良かったことは、まず限られた時間できちんと形にできたこと。これからの可能性を知ることができたのは良い経験になりました。そして、何よりも学んだことは、お金の使い方です。材料費、人件費をしっかり考えないといけない。基本的なことですが、利益をどこから出すのかということを考えたのは初めてでした。今回のプロジェクトも今の自分が勤めている会社のことも、改めて考えることができました」

 
最初は職場でもツリーハウスについて懐疑的な人もいたそうですが、活動を進めていくと気にかけてくれる方が徐々に増えてきました。ツリーハウスを立てる場所を探しに行ったときはひとりだったのが、少しずつ声をかけてくれる人も増えてきて、最終的に場所や工具、スノーシューなどは職場から提供してもらえることに。会社でも、工藤さんの取り組みがうまくいくようサポートをしてくれたそうです。

木上家プロジェクトのパンフレットも制作

失敗から学び、次にどう活かせるかを考えることが重要

今回は残念ながら、実現できなかったプロジェクトもありましたが、それでもニーズ調査を行い、何が問題だったのか声を拾ったグループもありました。その結果、自分たちが考えていたプロジェクトは需要がないことが分かったり、あたらしいニーズを見つけられたり、多くの方が何かしらの成果を感じることができたようです。仕事を行う上で常に失敗はつきものですが、それを次に活かせるよう、各自が自主的に動いていたのが印象的でした。

みんなで頭を悩ませながらアイデアを出す

柴原さん「木上家のプロジェクトは赤字になってしまったけれど、人数が集まらなくても実行しようと決断したことは良かったと思います。当日までの過程で、彼が周りに与えた影響はとても大きいはず。今回、目標売上は達成できませんでしたが、会社に依存せずに自分で稼ぐということができたのは大きな一歩になったんじゃないでしょうか。

「仕事をつくる、というテーマは暮らしていく上でどうしても向き合わなければいけないテーマ。今回は実際に仕事をつくって稼ぐということに取り組んでもらいましたが、なかなか難しい状況にも直面できました。結果的に実施はできなかったプログラムもありますが、考えて努力したプロセスに大きな価値がある。一発目で成果を叩き出すということは難しいですが、今後につながるとっかかりをつくれたかと思います」

 
柴原さんが思い描いているのは、もっと村民の人が関わってくれるような白川村らしい大学です。今後は白川郷ヒト大学をHUBとして、リノベーションや編集など活動領域を集約していく構想もあるそう。あたらしい学びの場として、白川村がより魅力的な地域になることは間違いなさそうです。


白川郷ヒト大学より、第一回、第二回の模様を寄稿していただきました。白川郷ヒト大学とは地域内外の多様なヒトをフックにして、地域課題の解決を目指す場。新たなヒトの出会いを通して、地域に関わる仕組みやきっかけを生み出していくために活動しています。

編集部マチノコト

マチノコト編集部

コミュニティデザインやまちづくりをテーマにしたメディアプロジェクト『マチノコト』編集部のアカウントです。

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