マチノコト

2017.1.20

自治体を越えた連携が鍵ーー地域ぐるみで”おもてなし”をする南伊豆町の「週末アドベンチャートリップ」

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みなさんは、静岡県伊豆半島南部で始まっている、ふるさと納税を使った面白い取り組みをご存知でしょうか?

そもそも、ふるさと納税とは、自分が応援したい自治体(市区町村)へ寄附をすると、その寄附金の返礼品として、自治体の特産品や旅券をもらうことができる制度。

納税することで、所得税や住民税が控除・還付されるので、最近では、税金対策でふるさと納税を行う人も増えています。また、生まれた場所でなくても納税できるので、自分が旅行でよく行く場所や、好きな特産品がある場所に納税し、お返しを楽しんでいる人も中にはいるようです。

民間主導で始まった新しい観光 ”納税トリップ”

伊豆半島南部では、このふるさと納税を活用し、民間主導の広域相互連携事業として、”納税トリップ”という新しい取り組みを始めています。

この納税トリップとは、南伊豆町へふるさと納税をした際に、返礼品としてもらえる「ふるさと寄附感謝券」で、伊豆半島南部の観光を存分に楽しめてしまうというもの。

「ふるさと寄附感謝券」は、伊豆半島南部のアクティビティや食事、宿泊、ガソリンスタンドなどの提携企業や施設にて使用することができます。アクティビティの組み合わせは自由自在。現在50以上の事業者が参加しており、こちらの一覧や、Google MAPで使用可能な施設やアクテビティを確認することができます。

返礼品として、納税額の半額分にあたる「ふるさと寄附感謝券」がもらえます。寄附金は、まちの環境整備や自然保護活動にあてられます。

返礼品として、納税額の半額分にあたる「ふるさと寄附感謝券」がもらえます。寄附金は、まちの環境整備や自然保護活動にあてられます。

「ふるさと寄附感謝券」が使える地域。南伊豆エリア7市町(下田市、南伊豆町、松崎町、西伊豆町、河津町、東伊豆町、伊豆市)。

「ふるさと寄附感謝券」が使える地域。南伊豆エリア7市町(下田市、南伊豆町、松崎町、西伊豆町、河津町、東伊豆町、伊豆市)。

この仕組みをつくり出したのは、ローカルビジネス起業家や地域おこし協力隊など8人の共同代表からなる「週末アドベンチャートリップ実行委員会」。実行委員会の活動の中心となる、静岡県伊豆半島の最南端にある南伊豆町では、当時賑わっていた温泉観光が廃れ、まちの活気が失われつつありました。8人は、観光業でどうにかまちに活気を取り戻したいということで、2014年6月に実行委員会を設立。

伊豆半島には、自然資源を生かしたアクティビティ事業者がたくさんあることに着目し、アクテビティを中心とした伊豆のPRをするべく『週末アドベンチャートリップ』を立ち上げました。

「ここ伊豆半島南部は、東京から近い上に、ハワイのような海と山が近い地形を持っているんですよね。海と山との間が小一時間で移動できる。それを活かしたら、たくさんの人に自然に触れてもらう観光ができると思ったんです」と話すのは、実行委員会共同代表であり、「VILLAGE INC.」代表でもある橋村和徳さん。

伊豆というと温泉のイメージが強いですが、本州で唯一フィリピン海プレートにあるため、国内でも特有の自然と地形がそのまま残っている場所。ここでしか見られない壮大な景観が楽しめる場所なのです。「週末アドベンチャートリップ」では、まだあまり知られていない、これらの魅力を活かした新しい観光を提案しています。

週末アドベンチャートリップホームページ。写真は、伊豆の秘境と呼ばれるヒリゾ浜。 出典元:週末アドベンチャートリップ ホームページ

週末アドベンチャートリップホームページ。写真は、伊豆の秘境と呼ばれるヒリゾ浜。

週末アドベンチャートリップのキャッチコピー「東京には贅沢な裏庭がある」は、ふらっと週末に裏庭で遊ぶ感覚で行くことができる伊豆の魅力を発信したいとの思いから付いたもの。

東京から南伊豆へは、車でおよそ3時間で行くことができ、高速道路代金やガソリン代金を入れても、往復1万円はかからないので、複数人であれば低コストで行けるのも魅力です。

まずは地域でのインナーコミュニケーションから

まちの中で新しいことを始めて、お客さんが来てくれたとしても、地元の人がその取り組みを知らずに迎え入れては、地域の魅力を伝えることはできません。実行委員会の皆さんは、まず地域の人たちに地域の魅力や地元事業者の取り組みを伝える、インナーコミュニケーションから始めました。

「VILLAGE INC.」の代表も務める橋村和徳さん。

「VILLAGE INC.」の代表も務める橋村和徳さん。

橋村さん「地元の人が知らないものを打ち出したところで、お客さんが来てくれたときに、地元の事業者がそんなの知らない!って、地域内の他の事業のことを説明できなかったら、お客さんが興冷めしてしまうじゃないですか。まず地元の人に知ってもらおうと、事業者同士の横連携からスタートして、事業者同士の連携を大きなくくりで発信していこうと思ったんですね。

例えば、1か月間アクティビティの無料体験会をやって、地元の人にまず体験してもらう機会をつくったり、半年に一度お互い知り合う機会も兼ねて、100人会議を開催するなど、地元の人たちが交流できる場づくりを一年がかりでやってきました」

船でしか行くことができないプライベートビーチなど、僻地にあるキャンプ場を運営している「VILLAGE INC.」。一日一組しか予約を取らないキャンプ場で、最大収容人数100人以上、周りに民家もないので、個人パーティをはじめ結婚式や音楽フェスの開催にも使われていて人気を博しています。

船でしか行くことができないプライベートビーチなど、僻地にあるキャンプ場を運営している「VILLAGE INC.」。一日一組しか予約を取らないキャンプ場で、最大収容人数100人以上、周りに民家もないので、個人パーティをはじめ結婚式や音楽フェスの開催にも使われていて人気を博しています。

このインナーコミュニケーションは、まちのみなさんの協力体制や絆づくりにも貢献したそうです。お互いがお互いをよく知ることで、まちにいる全員が、その場でお客さんのニーズに合わせた観光を提案することができ、まち全体でおもてなしをするというチームワークをつくることもできました。

橋村さん「みんなで一緒にリスクを持って取り組んでいきちましょうと声をかけています。要は、まちが豊かになれば、自分も周りも豊かになる。ミシュラン三ツ星といった知名度のあるお店などは別かもしれませんが、なかなか地方のお店単体でまちに人を呼ぶのは難しいですよね。まち全体の魅力を上げて盛り上げていけば、結果自分のところにも返ってくると思うんですよね」

さらに橋村さんたちは、各事業者の住所や電話番号などの基本情報、店主・オーナーからのコメントなどを掲載したインフォメーションカードを作成。実行委員会の活動拠点にもなっている、まちのコミュニティスペース「NanZ VILLAGE」に設置しました。インフォメーションカードは、単なる情報発信ツールにとどまらず、事業者同士がお互いの活動を知り、伝えるきっかけにもなりました。

インフォメーションカード。持ち歩きをしやすいポストカードサイズと、カスタマイズしてオリジナルのガイドブックができるA5サイズの2種類があります。

インフォメーションカード。持ち歩きをしやすいポストカードサイズと、カスタマイズしてオリジナルのガイドブックができるA5サイズの2種類があります。

公益概念からつくる地域観光

事業者同士サービスを競い合うのではなく、お互いの事業を知り、一緒にまちを盛り上げていく共創的なまちづくりが行われている南伊豆町。広域連携は、それぞれのまちが持つ魅力が異なる分、相互に補い合うことで、地域の魅力を増幅でき、より観光客の満足度が上がり、来訪につながるという利点があります。

その協力体制やインフラづくりを担ってきた実行委員会の動きを受け、2016年9月、実行委員会と、まちと事業者の調整役を担うミナミイズ人と経済活性化推進協議会、南伊豆町役場の三者で、「観光及び観光事業の振興に関する協定」を締結しました。ここで、南伊豆町役場は、ふるさと寄附感謝券の利用範囲に他市町村を含む南伊豆周辺地域を含めることを宣言したのです。

南伊豆町役場にて行われた記者会見の様子。

南伊豆町役場にて行われた記者会見の様子。

「南伊豆町が画期的なのは、おらが村って感覚ではなく、周りと一緒に盛り上げようと公益の概念を取り入れたこと。他の自治体や事業者さんがそのことに感化されて、足りない部分は、こんな風にお互いに協力していくように変化していったら嬉しい」と橋村さんは話します。

そして何よりも、「週末アドベンチャートリップ」を通して、地元の人が自然を含めた既存の地域資産が素晴らしいものだということや、地域に誇りを持って良いということを再認識してもらうことに貢献していきたいそうです。

橋村さん「メリットと思っていることがデメリットだったり、デメリットと思っていることがメリットになったりということがあります。例えば、誇りだと思っている地域の特産品は、隣の県でも扱っていて、強みにならないかもしれない。アクセス一つをとっても、かえって便が悪い方が、非日常感が出て魅力的かもしれない。

高く売れるとか、市場のニーズに合っているとか、そういった動機ではなく、僕らが「これは面白い!」と思うものを、まちの新たな魅力として発掘することが、僕らの強み。そこは地元の人は、なかなか気づきづらいところ。僕たちのような外部の人たちが関わることで、客観性が持てますよね。

僕たちは、今あるものをどう活かすか?というところからスタートして、事業への発想を生み出します。そうやって南伊豆地域が結果的に盛り上がっていったら良いなと思っています」

「週末アドベンチャートリップ実行委員会」の皆さん。

「週末アドベンチャートリップ実行委員会」の皆さん。

伊豆にある「ひと」「もの」「こと」、まち全ての資源を返礼品にした面白い取り組みと言えます。業種や自治体を越えた連携によって、まち全体が盛り上がり、それが新しい伊豆の魅力となる。これらの取り組みが入り口となり、少しずつではありますが、移住促進にも繋がっています。

こういった広域連携が、今後地方で叫ばれている事業の担い手不足の解決のヒントとなるかもしれません。

(書き手:松尾沙織

画像出典元:週末アドベンチャートリップホームページ、Facebookページ

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