2015.8.7
「福岡移住計画ラジオ」DJの市來孝人です。福岡・天神にスタジオを構えるラジオ局「COMI×TEN」から、福岡で面白い活動をする方をお招きし「福岡の生の声」をお届けしています。ゲストで登場していただいた方の中から、「マチノコト」とも相性の良い活動をご紹介しています。
今回は、昨年「マチノコト」でもキックオフイベントについてご紹介した「INNOVATION STUDIO FUKUOKA(イノベーションスタジオ福岡)」を取り上げます。
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「INNOVATION STUDIO FUKUOKA」は、様々な能力をもつ人材や新規事業開発などに意欲のある市民が混ざり合い、イノベーションを起こす人達を生み出して、福岡を世界に向けて発信していく取り組みです。
産官学民が一体となって、地域の成長戦略の策定から実行までを一貫して行う「福岡地域戦略推進協議会」が主催しています。これまで3つのテーマのプロジェクトが実施され、4つ目のプロジェクトが進行中です。
ラジオでは「INNOVATION STUDIO FUKUOKA」ディレクターの田村大(たむら・ひろし)さんにお越し頂き、これまで実施してきたプロジェクトがどんなテーマで、実際にどんな成果が生まれたのか、振り返って頂きました。
正式発足前のパイロットプロジェクトとして実施されたのが、「障がいがある子どもの境界をリデザインする」というプロジェクト。
田村さん:障がいというと福祉の話でしょ、と考えていらっしゃる方が多いと思うんですが、それをイノベーションの機会としてとらえてみようというプロジェクトです。 IT、デザインなどいわゆる福祉とは異なるジャンルの方に入ってもらって、障がい児がどういう生活をしているか、どういうところで困難を感じているかということを深掘りして、彼ら彼女らの新たな可能性を見つけていきました。
ここで課題として浮上したのは、例えば自分が「運転士になりたい」と言っても、親は「目が見えないから出来ないでしょ」というように、「出来ない、出来ない」と言われ続ける事で、彼ら彼女らが主体性を失ってしまうことです。ならば「出来る」チャンス、挑戦するチャンスをどんどんつくっていこうと。
このプロジェクトでの議論から生まれたチームは「チャレキッズ」として、平成27年度の福岡市共働事業提案制度の実施事業に採択され、福岡市と共働した取り組みとして形になっています。
正式スタート後に初めて行われたプロジェクトは、「日常の中のスポーツのデザイン」です。ウェアラブルデバイスなどに注目が集まる中でスポーツが持つ可能性を最大限に活かし、日常のなかにデザインし直すことで、現代社会が抱える健康にまつわる様々な課題を解いていくという趣旨です。
田村さん:日本は、世界的に見るとスポーツ人口の比率がかなり低い方なんです。「観る」方はそれなりにビジネスになっているが、「する」方のマーケットは小さい。
オフィスでの勤務時間中にどうやって体を動かすか、という問題意識からスタートしたチームは面白かったですね。日本人は、長時間労働の中、とにかく体力を減らさないように働いている。そんな状況では、アメリカではポピュラーな、立って仕事するスタイルも「まっぴらゴメン」というのが日本の感覚なんですよね。
そこで発想を変えて、休憩時間を最大限、リフレッシュ出来るものにしてはどうかと考えたんです。そして、そのための最善の手段が体を動かすことだった。まさにコロンブスの卵のような思考の転換です。
このチームは実現に向けて動き出しています。これとは別に、デジタル玩具はスマートフォンだったり、手先だけを使って遊ぶものが多いところに問題意識を持ち「体を動かす」デジタル玩具を作っていこうというチームもあるそうです。
続いて行われたプロジェクトは「ライフコースのイノベーション」。技術の進化は人々のライフコース(生きかた、暮らしかた)そのものを変化させると言われており、これらの変化を大きなイノベーションのチャンスと捉えるプロジェクトです。ライフコースとは、ライフスタイルより、長いスパンをイメージしたワーディングだそう。
田村さん:僕のお気に入りは、福岡市東区の美和台というところをベースにしたチームです。会社を定年退職した世代がどう新しい人生を歩んでいくかというところに焦点を当てて、リサーチを進めていきました。そこで発見したのは、最近のリタイヤ層は、地域活動に対して非常にネガティブな方が多いということ。
一方、自らの経験を活かして「プロフェッショナルとして何かやっていきたい」という意識はとても強い。そこに着目し、「地域活動」を「マイクロビジネス」と言い換えて、活性化していこうと。
「INNOVATION STUDIO FUKUOKA」では九州大学のエクスチェンジプログラムを活用し、オランダの「アムステルダムメディアラボ」とも協業しています。九州大学の学生2人がアムステルダムに留学し、アムステルダムからも研究員2人が福岡に来ています。やはり生活習慣の違いからくる発想の面白さもあるようです。
田村さん;彼女らの発想で面白いと思ったのは、オランダには「長時間労働」という概念がない、そういう前提で「何故、日本人はこんなに長時間労働しているのか」ということを調べていったこと。それは悪い事、正すべき事だと思っていたら、実は「会社の中に人生がある」という発見につながったんです。
だから、リタイヤすると喪失感が出てしまうのです。これはオランダ人にはないこと。そこで、リタイヤの前に会社の仕事の中にライフをどんどん増やしていこうという、発想につながった。
6月末にスタートした最新のプロジェクトがこちら。8月末までが対象者インタビューなどの「リサーチ、フィールドワーク期間」、11月中旬までがフィールドワークなどで検証を行う「プロトタイプ&テスト期間」、その後実際に事業化に向けて動き出す「スケールアップ&スケールアウト期間」となります。田村さんには、このプロジェクトの狙いについて伺いました。
田村さん:人、時間、お金…どういう資源を使っていくかは、ビジネス発想の根本なのですが、もっと活用ができそうだけれどそんなに有効活用されていないものが結構あります。福岡は豊かな土地柄なので、なおさら。そういうものをどうやってイノベーションに結びつけられるかを考えています。
今はまだ、リサーチのフェーズなので、結果はまだこれからですが、移動、材木、高齢者の労働力、人間の創造性など、範囲もレベルもバラバラのテーマで、チームが発見の旅に出ています。どんなエピソードを持って帰ってきてくれるかが楽しみです。
最後にラジオでは、自らも東京から福岡への移住者である田村さんに、福岡でこういった活動をしていることの意義についても伺ってみました。
田村さん:東京にいた時に感じるのは、どうしてもその時々のトレンドワードに引っ張られることです。例えばビッグデータだったり、IoTだったり…そういった「お金になりそうなキーワード」が前提にあって、その中で新しいことが生まれると考える人がどうしても多いのですが、新しい事はどこからでも起こる、始められると思うんです。
トレンド志向ではなく、自らの思いで自らの生活を変えていける、そういう地に足が着いたイノベーションが、福岡から発信していけると思っています。これも、生活を大切にする、福岡の豊かさあっての価値観があるからなんでしょうね。
最近では、福岡の暮らしやすさは世界的にも知られるようになってきましたが、これからはイノベーションの拠点として、福岡に憧れ、福岡での新たな挑戦を胸に抱いて、世界中から人が集まってくるようなまちにしていけたら、と思っています。INNOVATION STUDIO FUKUOKAは、その最初の一歩だと思っています。
近年コンパクトシティとして暮らしやすさ・働きやすさが話題の福岡で、様々な人の様々な発想を掛け合わせることで生活をよりよくしていこうというINNOVATION STUDIO FUKUOKA。次のプロジェクトは来年春にスタート予定です。
画像提供:INNOVATION STUDIO FUKUOKA
INNOVATION STUDIO FUKUOKA
http://www.innovation-studio.jp
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