2015.7.26
7月24〜26日の3日間、「京都流議定書2015」が開催されました。「経済とソーシャルの交わるところ」というテーマで様々なセッションやワークショップが開催され、京都のこれからに関心を持つ人々が集いました。
マチノコトでも取材に伺い、多摩大学大学院の紺野登教授が登壇して「都市のイノベーション」について語ったセッションの模様をお伝えします。
ーーー21世紀は「都市の時代」。
紺野教授のセッションは、そんな言葉からスタートしました。農村から都市への人口集中、都市間のネットワークによる経済圏の確立など、これまでとは異なる動きが世界で起き始めています。
都市に変化が起き始めている端緒として、紺野教授はアムステルダムの図書館の事例を紹介しました。
紺野教授「アムステルダムの中央図書館では、図書館でありながら図書を置いておく場所にはなっていません。図書館は、知の交流を図るための装置として認識されています。そう捉えると、図書館は都市が経済的な価値を生み出す上で重要な存在となります。
図書館というパブリックスペースの捉え方も変化していますが、それは都市も同様です。都市はこれまでの世界でも重要なものでしたが、20世紀までは農村や工業地帯で作られたものを「管理」することが主な役割でした。都市自体が価値を生み出すものではなかったのです。」
かつては創造されたものを管理することが主な役割だった都市。知識経済が重要になっていくと、都市自体が価値を生み出す場所になっていきます。
紺野教授「世界では農村から都市へと人が動いています。都市人口が増加しているのです。世界では今増加中ですが、日本は世界平均へと達するのが早かった。ですが、日本が果たした都市化は、これから新興国が目指す都市化のイメージは異なります。
「知識経済指標」という指標があります。そして、この知識経済指標とGDPは相関します。世界では知識経済への転換が進んできていて、フィンランドやスウェーデンといったエリアが高い上位にランクインしています。昔は日本のランクも高かったのですが、少しずつ世界における順位が下がってきている。
日本の都市も、知識経済を前提とした都市へと質的転換を図らなければなりません。そのためには、都市のデザインをもう一度見直す必要があります。」
では都市はどのように変化していけば良いのか。紺野教授は、20世紀の都市を構成していた要素の説明をしながら、変化について説明されていました。
紺野教授「20世紀の都市は、3つのテクノロジーで成り立っていました。バスや車、電車などの「高速交通網」。高層ビルを可能にした「エレベーター」、そして「情報技術」です。これらが組み合わさることで、ニューヨークのようなスカイスクレイパーな都市が誕生しました。」
紺野教授は21世紀の都市について「「関係性」が基本的なキーワードになると考えています」とコメント。
紺野教授が紹介していたのが、スペインのビルバオという都市。この約35万人ほどの人々が住む都市は、経済的な競争力を生み出そうと試行錯誤したもののうまくいかなかったそうです。そんな都市に、ニューヨークのグッゲンハイム美術館が持ち込まれることで、変化が生まれたんだとか。
ビルバオには、美術館という文化が持ち込まれただけではなく、地下鉄が開通して都市の行動空間が変化しました。地下鉄のデザインには、建築家のノーマン・フォスター氏が関わり、建築物としても目を見張るものとなっています。
紺野教授「都市の街区のあり方も変わる必要がありますが、時間的な関係性も非常に重要です。都市には、複数の時間のレイヤーが流れています。自然や土地という数千年以上の長い時間軸、文化や文明という数百年単位の時間軸、ビジネスなど10年単位の時間軸、ファッションなど1年単位の時間軸など様々です。こうした色々な時間の流れの中核に都市があり、こうした様々な時間の流れとどう関係していくのかということは非常に重要です。」
都市に暮らす人々同士の関係に影響を与えていく上で、パブリックスペースの活用の大切さについて紺野教授は語ります。
紺野教授「ロンドンの大英図書館では、図書館の前の庭がテラススペースのようになっており、人々の憩いの場となっています。また、ロンドン市内に小さくてもいいから面白いパブリックスペースを設計しようというプロジェクトが行われていました。
「PUBLIC LONDON」という活動で、30数個のユニークなパブリックスペースが生まれています。これは、ロンドンという街に大きな影響を与えている。たとえば、再開発が行われたキングス・クロス駅近くは、元々犯罪率の高い危険なエリアでしたが、今では人々が集い、Googleのキャンパスがやってくるような場所になっています。」
紺野教授は、オフィスビルの1階をオープンスペースにしている事例も紹介。1階を都市に開いたことで、都市とビルの結びつきが生まれています。結果、この1階のオープンスペースを内包したビルの価値は向上しており、「ガーディアン」というメディアのオフィスも入っているそうです。
地下1階にはアートセンターが入っているなど、様々な関係性を生み出そうとしているビルの事例です。このように、関係性を生みだそうという動きが都市のデザインを変えていき始めています。
紺野教授「異なるコミュニティやシステムの間には壁が生まれます。これらを繋ぎ、相互作用や創発を起こす媒介となるものを「バウンダリーオブジェクト」と呼びます。都市における「バウンダリーオブジェクト」として、パブリックスペースが考えられます。
たとえば、ニューヨークの公園。少し前に、ここでは「Occupy Wall Street」が起きました。こうしたパブリックスペースは、革命のスイッチを押すような場所になりえます。同じくニューヨークでは、「ハイライン」という鉄道跡地を活用した公園があります。ここは最初、撤廃してしまおうという話が出ていたのですが、残そうという市民運動が起き、今のような形で残すことになりました。」
グローバルな経済圏の中で、市民が自らの空間を復権、確保することを、地理経済学者のD. ハーヴェイ氏は「都市の権利」だと主張しているそうです。
「バウンダリーオブジェクト」としてのパブリックスペース。そして、そのパブリックスペースを残し、活用する市民。これらは都市からイノベーションを生むという視点でも、非常に重要なものとなります。
市民の力を活かして新しいものを生み出していこうという動きも色々登場してきています。紺野教授は、「フューチャーセンター」や「リビングラボ」といった欧州から始まっている事例を紹介。
都市というものをどう捉え、都市から新しいものを生み出していくために、市民に何が可能なのか。視野と考えを広げていく良いトークセッションでした。
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