マチノコト

2016.6.20

不便を楽しめる百姓をめざして(北秋田市編)ーー「秋田」という暮らしの選択肢

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近年では、移住を考えるだけでなく、移住先で積極的な地域との関わりを探っている方も増えたきたように感じます。そのとき、さまざまな地域の選択肢があるなか、どこを移住先に選ぶのでしょうか。

「行ったことがある」「知り合いがいる」などの、ちょっとした縁をきっかけに移住された方の話はよく耳にしますが、まずは情報として知ることが一番最初の入口になるのかもしれません。

都会から地方へと移り住んだ先輩たちは、どのような暮らしや仕事の変化が出てきたのか。また、どのように地域との関わっているのか。

その部分を探っていこうというのが、こちらの特集。今回は「秋田という暮らしの選択肢」について。

前回は「秋田移住(Aターン)」について触れましたが、今回は北秋田市にご家族で移住され、カフェ、イラスト、若い女性の情報発信に携わる、織山友里さんをご紹介します。その前に、まずは北秋田市という地域についてのご説明から。

首都圏よりアクセス好し、マタギ文化を継承する「北秋田市」

北秋田市は、秋田県の北部中央に位置します。人口は約34,000人、面積1,152km2と秋田県の約10%を占めるほどの広さ。首都圏からのアクセスとしても、大館能代空港があるため比較的便利。

白神山地や十和田八幡平、角館や田沢湖に囲まれた立地で、「『自然』と『ひと』の調和によるぬくもりある交流都市」を掲げています。自然と共生しながら、市民参加による住みよいまちづくりを目指しています。

専業か兼業かは分かれますが、熊の狩猟を生業の一つとする「マタギ」の文化、国の重要無形文化財に指定の「根子番楽」や「獅子踊り」などの民俗芸能も今も継承される地域でもあります。

そんな北秋田市に移住された織山友里さんの、移住前の経緯や移住後の変化、日々の地域との関わりについてお話を聞いてきました。

「自給自足」「過疎」など、集落の「ない」魅力に惹かれて

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織山家は、2011年7月に北秋田市に移住。現在、30世帯ほどの集落で、2人のお子さんたちと暮らします。友里さんは和歌山県和歌山市出身。東京で結婚・仕事に従事していたものの、東日本大震災を経験し「東京にいるのは厳しい」と感じて、夫・英行さんの地元である秋田へ訪れるようになりました。

東京時代には、人の多さにだけでなく、震災時の買いだめを目にして「物があるのにない」という状況を味わい、都会の不便さを痛感。移住前に、2度訪れていた北秋田市には「自給自足」「過疎」という田舎の魅力を感じ、子育ての環境としても最適と感じたそう。

秋田は震災の被害が少ないエリアでもあり、空き家となっていた祖父の家もある、という条件が整っていたことも大きな要因でした。

移住直後は「フランス語にも聞こえる地元の言葉が大変でした(笑)。集落には同年代は少なく、地域活性化などに関わらないと友達ができにくいです。偶然にも、そこで知り合った人の子どもの年齢が同じだったから仲良くなれました」と最初は大変なことも多々ありました。

しかし「退屈が嫌いな自分の性格としては、不便なことが多いぶん、工夫できることも多くて楽しい」と友里さんは言います。自分で薪を割ったり、野菜をつくったり、キノコを採りに行ったりと「都会で買っていたものが採れる。そもそも都会では買えないものまで採れる。なんにもないけど、なんでもある」という環境で、日々できることが増え、自身がレベルアップする感覚を楽しんでいるそうです。

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「ないなら自分でつくればいい。あれがない、これがないではなく『ない』生活を楽しむことが大切ですよね」

「元々インドアだったんですけど、移住してからはアウトドアが楽しくなってきたんです。近くに『桃洞の滝』という場所があって、そこへ向かう森の道を歩いていると、誰もいない静けさがあって、都会以上に“引き籠もれる”という感覚があります。これってアウトドアに見えて、実は“究極のインドア”だと思うんです」

「集落のおじいちゃん、おばあちゃんからは野菜などお裾分けもらうんですけど、もらってばっかりで申し訳ないといつも思ってたんです。そしたら、ある日『このカセットをCDに移してくれないか』と頼まれて『それならできる!』と自分でも役に立てることも見つけました。他にも、ネットでの調べものやプリンタなど機材の設置をお手伝いをさせてもらっています」

と、田舎ならではの物々交換ならぬ“物技”交換が行われており、都会とは違った生活を味わっているとのこと。

さまざまな顔を持ちながら、地域との付き合い方を広げる

移住に際して「働き口を決めずに来ましたが、来てみたら意外とあった」と口にする友里さん。現在、夫・英行さんは森吉山ダムの広報支援をしています。

前職での映像制作に携わっていたスキルを活かして、地元の内陸縦貫鉄道や風景を残す活動などにも取り組んでいます。

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定期的に、森吉山ダムでは地域住民向けにイベントが開催されるそう。企画から運営までを担当し、黄色のメガホンを持つ男性が、夫・英行さん(提供:織山家)

一方、友里さんは森吉山ダムの地域に開いたカフェスペース「喫茶ねもりだ」のスタッフとしても勤めます(冬季は休みのため、4〜11月の期間のみ)。

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「喫茶ねもりだ」での友里さん(提供:織山家)

「『喫茶ねもりだで』で仕事しているなかでの交流もあってか、地元のおばあちゃんたちのことは若い人たちのなかでは一番詳しいと思います。いろんなことに頼られたりと、信頼されている感覚もあります。おばあちゃんたちは、ネットで検索しても出てこない知恵をたくさん持っていて、驚きながらも日々いろんな学びがあります」

また、趣味のイラストが転じて、市の広報誌「バタもっち」で4コマ漫画の月1掲載も。さらには、北秋田市に暮らす20〜30代の女性が楽しむ姿を情報発信するチーム「*menoco」の一員。もちろん、二児の母でもあり、とさまざまな顔を持っています。

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(提供:織山家)

引っ込み思案な人ほど、田舎との相性がいい?

今後については、英行さんの祖父から引き継いだ家をリノベーションして、ゲストハウスの開業に向けての準備を進めているとのこと。今よりも、さらに職住が隣接する暮らしに変わっていきます。

「自分たちが外に出たくないという気持ちもありますが(笑)、この集落にもっと若い人たちが移住してきてほしい」という思いもあります。地域内外の人をつなぐ媒介者として、地域の人や文化を知ってもらうきっかけを、ゲストハウスを通じてつくりたいと話してくれました。

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「夫婦共に人見知りで引っ込み思案なんですけど、それでも『人と関わりたい』という気持ちはあります。都会には、私たちと同じような性格で、生きづらさを感じている人たちもいるはず。そんな人たちに『私たちでも大丈夫だったんだから、大丈夫だよ』と伝えられるようなゲストハウスをつくりたいです」

「これはできる、これは自分にはできないという感覚は、どこでも一緒だと思うんです。パズルみたいに、自分の役割をはめていく感覚。ただ、都会だとそのピースが多すぎますよね。田舎だと、不便も多くて、やれる人が少ないぶんピースがはまりやすい気がします。単純に、頼られるとうれしいじゃないですか。求められる場所に行きたいじゃないですか。田舎のほうが認められる率は大きいですよね」

「百姓」というあり方が、広げる地域との関わり

専門性に特化して、分業でいろいろなことを進んでいくのが都会、それに対して、複数のことができ、オールランドプレーヤーが多いのが田舎。それは、生きるために身に付けざるえないスキルとも言えます。

寒冷地ゆえに、より知恵を絞りながら暮らしをつくっていく秋田だとなおさら。友里さんの場合は、その不便であるゆえに“百姓的”にならざる得ない状況を楽しんでいるように見えます。

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「器用貧乏で、浅く広くでも、ちょっとずつ、いろんなことを頑張る。それでもいい。そういう人がもっと田舎に集ればいいんじゃないかな」

都会ではできなかったことが、田舎ではできる可能性があり、だからこそ地方にはチャンスが溢れていると感じる人は多いのではないでしょうか。さまざまな技を身につけることで、地域の人との会話のきっかけをも生み、地域との関わりも少しずつも増えていく。ある種、田舎はRPGのように冒険しながら経験値を積んでいく感覚を、リアルで楽しめる場所とも言えるかもしれません。

ただ、このように田舎で当然とされている事柄は、都会で扱うことはできないのでしょうか? 自分たちの暮らしや仕事について考えるための大事な問いを、織山夫妻の暮らしそのものが持っているようにも感じます。

行ってみる、という選択肢

織山家には、実際に足を運ぶことができます。移住、二拠点などの地域との関わり方を探っている人は、先輩移住者の話のなかから、たくさんの暮らしのヒントを見つけられます。

その地を訪れるみなさんは、“よそ者”になるかとは思いますが、その“よその目”を活かすこともできるはずです。その地域の何がおもしろく、そこでは何が不足しているのか、ご自身で体験してみることから、地域との関係性がはじまるはずです。

大見謝将伍

大見謝 将伍

プランナー。 1988年生まれ。伊平屋島(沖縄)出身。東京-沖縄の2拠点で、カクテル - 場 − メディアづくりを軸とした、つたえる-つなぐ-まぜるための活動を「coqktail」でやってます。 「おきなわ移住計画」代表 -「水上家」管理人 - 「京都移住計画」広報、「焦点街」編集長など。自由研究テーマは、移住 - 民間伝承 - はたらき方 - 商店街です。

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