マチノコト

2015.3.12

オープンデータとシビックテックでマチを盛り上げる方法論ーー地域と個人の関わり方のこれから

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マチノコトでは、被災した地域のひとつ、福島県いわき市にキャンパスを構える東日本国際大学と協力して、各領域の先端で活動している実践家と現場の視点を共有する連続イベントを開催しています。第一回は「地域と個人の関わり方のこれから〜〈郷土・地域〉とは何かを考える〜」というテーマで開催しました。

第二回となる「行政と市民のあり方のこれから〜〈郷土・地域〉とは何かを考える〜」は2月19日にSHIBAURA HOUSEで開催され、前回に引き続き多くの若い人たちが参加しました。

イベントでは、まずはじめに共同企画の東日本国際大学教授で思想家の先崎彰容さんのイントロダクションからスタート。

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先崎さん「震災が起きたことによって、今、日本の社会に何かしなければいけないな、という気運が高まっています。今日は、第一線で活躍している先生方をお呼びしています。わたしたちが新しく取り組もうとしていることが、実は戦前にも似たようなことがあったかもしれないし、あるいは、その中で、問題点、過ち、成功事例があったかもしれない。

その時代の思想や文学を読むことで、どういう心持ちでそれらをやっていたか、という心の中まで見えてくる。それが思想・文学の醍醐味です。思想や文学が、現場で活動している人との対話は、ともすれば急ぎがちの活動に少し、上からゆったりと身届けることができ、今後の長期的な方針を考えることができる。そこが、おもしろいかと思います」

地域活性の秘訣は、小さな活動グループをつくっていくこと

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最初のプレゼンターは、地域と人のつながりを研究する地域SNS研究会の発足や、国内のオープンデータコミュニティづくりから、行政などへの政策提言を行う国際大学GLOCOM主任研究員で一般社団法人オープンナレッジファウンデーションジャパン代表理事の庄司昌彦さん。

庄司さん「国際大学の庄司と言います。国際大学で、地域で人のつながりを生み出すためにSNS(facebookやtwitterなど)を使えないか、ってことを研究してきた者です。今日はそんな観点と応用事例を話したいと思っています」

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庄司さん「僕の関心は、「地域の資源を総動員して、地域の課題を自分たちで解決していく社会づくり」。自分たちの地域にある、人と物と金と情報をどうしたらうまく活かせるか、ということです。そして、「人と人」をどうつなぐかということで、SNSを地域で関係を結ぶために使う人同士を横につないで、情報交換をする地域SNS研究会をやっています」

研究を通じて、うまくいっている地域社会には小グループの協調行動が重要であることを発見したという庄司さん。それから、小グループの集団活動が活発な地域はどうやったらそれができているか?という問いを立てたそうです。「信頼」「互酬性」「市民参加のネットワーク」「人のつながり」が大事であり、人のつながりには、人のつながりを深める、強める、って話と新しいつながりをつくるという二つがあるんだとか。

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庄司さん「共通の言葉をつくったり、新しい人を連れてきたりすることで、あちこちで小さい活動がぼこぼこと出てきて、地域活性化がすすむ。そういうことが大事なのだろう、と考えたわけです。あと、様々なグループが出てきたとき、彼らが使える無料で使えるSNSツールやオープンデータなどの資源を最大限使うことが、その地域がその地域らしくなっていくためには必要なんじゃないか、と思っています」

そこから、庄司さんは会津にある「sicon(シコン)」という1000人ほどの地域SNSコミュニティを活用した二つの実践事例を紹介。

ひとつは、講演会を今まで300回近く開催しているホテルの話。講師は謝金無しですが、宿泊、温泉、懇親会への参加などを無料で提供され、講演会には地元の人がたくさん集まり、講演会後はそのまま懇親会が始まってみんなで吞んでいるうちに帰れなくなり、泊まるというビジネスモデルを展開しているホテルなんだそう。そして、そのままSNSにも登録。

このユニークなつながり方が意外なカタチで現れたそうで、庄司さんがご自身の体験談を続けます。

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庄司さん「東日本大震災があったときに、どこかの土地を支援したいんだけど、どこに縁があるか、と考えたときに私が一番気になったのがここのホテルだったんです。SNSでつながっている友達が何十人もいて、彼らの日々の更新もあって、イベント情報もときどき送られてきていた。そういう中で、たくさんの知り合いがいる中でここが一番気になった。で、このホテルはこういうつながりづくりを300回ぐらいやっているんです。「外のつながりをつくる」という上で非常にうまくやっている事例です」

もうひとつは、地元の若者のために仕事をつくるために、3人ぐらいでできる会社を30個つくると言って、居酒屋、カフェ、介護など、次々と起業している方の事例。たくさん会社が生まれると、今度は会社同士のシナジーが生まれ、グループ内、グループ同士の活動の活性化が生まれて、SNSがそれらの活動が支えているそう。

最後に、庄司さんは地域のオープンデータを駆使しながら、会津大学の若者が中心で活動を行うCode for Aizuの話をして、プレゼンテーションを締めました。

オープンデータで、行政と市民をつなげる

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次のプレゼンターは、テクノロジーを活用した地域のコミュニティづくりや、行政と技術者の橋渡しを行っている団体Code for Japanの関治之さんです。

関さん「Code for japanの関です。今日はCode for Japanの話をします。原点は震災が起きた際、「sinsai.info」というサイトを立ち上げたのがキッカケです。その延長線上として、Code for Japanをやっています。今は、被災地に限らず、自分たちのマチの課題を技術を使って、解決しようというコミュニティです」

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関さん「具体的には、行政が持っているデータ資源を使って、住民の問題や課題を共有した上で、楽しく、何かをつくるという場づくりをしています。地域の課題はその土地の人たちしか解決できないので、Code for Japanで解決してあげよう、ではなくて、その土地で自立できるよう頑張ってほしい、という想いでやっています」

関さんは、Code for Japanの各地域での事例を紹介。自分の収入額を入力すると、税金が何にどのぐらいでどう使われているかがわかる「税金はどこへ行った?」や、金沢にいるCode for Kanazawaが開発した、ゴミを出す日をスマホで簡単にわかるアプリ「5374.jp」など。どちらもオープンソースで開発されていて「税金はどこへ行った?」は200地域以上、5374.jpは50地域以上で使われているそう。

最後に、会津若松で消防隊員の人たちのための課題解決アプリの紹介。会津若松は消火栓が地下に埋め込まれているので、雪降ったときにわからなくなってしまうそうです。そのため、隊員はどこに消火栓があるかわからなくなるという課題がありました。この課題を解決するために、消火栓の位置情報をマッピングして、スマホで探せるようなアプリケーションを作成しました。

関さん「Code forコミュニティはアプリ開発そのものが大事なのではなく、紹介したようなアプリのアイデアが生まれるような場、コミュニティづくりを一番大事にしています。場づくりのポイントはフラットに誰でも参加できること。フラットなので、行政の人にも来てもらって交流します。行政の人と普段から接する機会をつくることで、市民との関係性が生まれることが重要です」

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関さん「例えば、僕はエンジニアなので、直接市役所の住民説明会とかに行って意見を言うのは苦手なわけです。ただ、つくるのは好き。そこでIT とかデータを活用するって視点を入れることで、エンジニアと行政という固い関係性がすごい柔らかい関係性になる。今まで行政に関わってこなかった人たちが、マチをよくするって参加を生むことがあるんじゃないか、と思っています」

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関さん「行政との連携が強くなってきた背景にあるのは「オープンデータ」です。これまでデータは持っていましたが、編集されていたり、使用が限定されていたりしていました。公開される先も、ウェブサイトだったり、形式がpdfだったり。オープンデータでは、データそのものを公開しましょうという動きになっています。実はデータは隠れた資産なんです。その資産を公開することで、それを使ったアプリ開発が可能になっています」

このように技術者と行政・自治体との間に生まれる化学反応にヒントを得た関さんは、技術者を行政・自治体に派遣する仕組みをつくりはじめています。

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関さん「自治体に対して企業の優秀な人を派遣して、自治体の職員として1年間働く仕組みを作っています。すでに、福島県浪江町で実践しています。この町の人たちは全員避難していまして、行政と町民とのコミュニケーション手段が月に1回の広報誌だけ。そこで町民にタブレット端末を配布して、コミュニケーション促しましょうという話をしています。

ただ、どうやってアプリをつくるのか、どうやって使ってもらうのかという課題に対して、Code for Japanから派遣されているメンバーが窓口になってプロジェクトを進めています。それを色んな会社と連携してやっていけるようなコーポレートフェローという仕組みを作っています」

地域SNSで画一化の先へ

二人のゲストの発表を終えて休憩に入り、後半のセッションへ。まず、ゲストの発表について先崎さんのコメント。

先崎さん「非常におもしろくお聞きしてました。お二方の話に共通していたことが一点あるような気がします。まず、SNSには一般的に「拡散する、広がっていく」というイメージが特徴としてあると思います。しかし、お二方は、SNSやテクノロジーの話をしながらも、その特徴とは異なる点に言及していたこということで共通しているはずなんですね」

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先崎さん「私たちは、戦後まずは、ご飯を食べられるようになることが最優先事項でした。そのため、どこにいっても同じようなものが食べられるようにする「画一化」が進みました。そして、この「画一化」は今も一番優先されています。新幹線に乗って、どこの駅で降りても、マチの表情は同じで、どこの観光地に行っても同じようなものが売っている。けれども、ふと、売り物の中にご当地キティちゃんを見つける。ここに計らずも、現代社会の雰囲気が流れています。

キティちゃんと言えば世界レベルの画一化の象徴です。ところが、ご当地キティちゃんというのは、白虎隊の服を着ていたりします。僕たちは、画一化した豊かな社会の中で、“その”マチとか“その”地域という独自性を持ちたいと思い始めている時代になってきているんです。

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先崎さん「SNSは繋がりを広げていくことでより、世界をより画一化させる可能性のあるツールです。ですが、お二方はこのツールを活用して、逆に地域性というのを生み出そうとしている、この逆説が、僕はおもしろい、というか時代を象徴していると思いました」

行政職員の可能性を引き出すために

先崎さんの話を受けて、議論が進む中で、話題は、行政職員との関わり方に。

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関さん「一言で職員と言っても、色々な人がいるなぁ、と思っています。ただ、何千人といる中でいい人で出会うことが難しかった。ただ、こうしたイベントの場で出会うと行政の職員としてではなく1人の人間として出会うことができる。

そして、何か変えたいという想いをもって来ているのがわかる。で、そういう方なんで、町内で新しいことをやろうとする反発もあるけど情熱をもって変えていくわけです。実際に想いをもった行政職員がマチを変えていくという動きがあって、Code for Japanは行政の中で何かを変えたい人たちをあぶりだす仕掛けのような、リトマス試験紙のような役割をしているところがあるんじゃないかと思います」

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庄司さん「活躍している行政職員の同士の交流が会津若松では多くて、その人たちは、楽しく、活き活きしています。行政職員のオープンデータや草の根の活動というと、実は、イタリアが盛んなんです。なぜかというと「スパゲッティオープンデータ」という公務員ネットワークがあるためです。そこで、情報のやりとりをしている。公務員がお互いに助け合いながら、各地でそれぞれのことをやっていく。連携しやすい時代になっているんだなぁと感じます」

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先崎さん「お二方の話もそうですが、ぼくらはお役所批判をしたいわけじゃないんです。オシャレな感覚を参考にするだとか、若者の考えとすりあわせていく。こうしたアプローチと行政の仕事とは、これまで対立的に考えられてきたし、理想論となりがちなところなんですが、そこが合わさってこないと地方の独自性は出てこないと思うのです」

地に足をつけて考え、行動していく

この後、参加者からの質問として、「行政と市民だけじゃなくて、間にある組織としてマチのことに関わる仕組みや先進的な事例はあるのか?」「どういうプロセスで組織に人が継続的に関わっていくか」などの質問がスピーカーに投げかけられました。議論はつきません。そして、最後に「未来に向かって、今何が気になっているか、聞きたいです」という質問も。

関さん「直近だったら、コーポレートフェローシップの募集を開始したので、それを企業がどれだけ参加してくれるかな、ということが気になりますね。もう少し先だと、僕がいなくなった後のCode for Japanのことです。この団体が発展しているような状態、あり方が気になっています。まだまだ若い組織なので、そこには、何かしら仕掛けや仕組みが必要だと思うんで、それってなんだろう?ってことですね」

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庄司さん「直近だと、開催日を間近に控えた(編集注:イベント開催は2月19日)インターナショナルオープンデータデイのことが気になります。毎年2月の後半に開催していて、今年は2月21日開催で、世界中の地域で地元の地域のデータを使ったイベントが開かれる日なんです。自分が今一番気になっているのは、これまで偉そうに話していたのですが、自分が住んでいる地域、自分が働いている地域との縁が全然ないということ。

江戸川区の飛び地に住んでいるのですが、マンション買っちゃいましたから、後30年ぐらい住みます。で、その地域とどう関わっていくかを、もう3年ぐらい模索しているんですけど、なかなか見えてこない。今日話したことを自分の生き方としても実践したいなぁと思っています」

最後に先崎さんから総括のコメント。

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先崎さん「実は「社会」という大きな問題と、自分の中で抱え込んでいる違和感をキチンと言葉で区分けしていくと、2つは意外と繋がっている。その地に足を着けないで、ただ大きなテーマの話題について絶叫し始めたときに、人間は一番怪しくなるんだというのが、僕が思想を勉強している根本にあるんです。なので、ネガティブなことを言う役回りになるんだけど、日本社会が急激に激変することを、ちょっと抑えめにしていくようなことを続けていくことが大切だと思いますね」

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この後、参加者を交えた交流会の時間を持ち、イベントは終了。連続イベントは、第3回が最終回。第3回は、「「地域に問いをたてる」〜〈郷土・地域〉とは何かを考える〜」というテーマで開催しました。

こちらも後日レポートを掲載予定ですのでお楽しみに!

写真:加藤甫
協力:東日本国際大学

マチノコト連続イベント「地域と個人の関わり方のこれから」レポート

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