2016.4.10
今年度からマチノコトは、「Neighbors Next U26 Project」のメディアパートナーになりました。マチノコトでも「Neighbors Next U26 Project」の活動の様子をお伝えしていきます。
10年後、20年後、集合住宅はどう変化しているのでしょうか。変化を余儀なくされるであろう集合住宅に対して、若者は何を考えているのでしょうか。
26歳以下の世代が集い、都市部のマンションが持つ課題の一つである「人の無縁化」を解決するソリューションを考え、コミュ二ティをつくりだしていく「Neighbors Next U26 Project」では、そんな集合して暮らすことの未来を探っています。
「U26」プロジェクトは、現在、2016年度の活動メンバーを募集しています。2016年度のテーマは「大規模マンションにおけるコミュティカフェの未来」。
多世代交流、子育て世代の息抜き、お年寄りの生きがいの創出といった価値があるカフェとマンションの関係性について、あらゆる領域のプロフェッショナルや現場の人々と関わりながら考え、実際に場の運営を手がけていきます。
先日、新年度の立ち上がりに際して、プロジェクト運営を統括するHITOTOWAの荒昌史氏と、2015年度にオブザーバーとして参加してくださった建築家の仲俊治氏、猪熊純氏によるミーティングを兼ねた座談会が行われ、昨年度の総括と2016年度のプロジェクトの展望について話し合いが持たれました。
荒:お二人には通年のプログラムに6回ほどご参加いただきましたが、いかがでしたか?
仲:当初は「調布のマンションの共有部の使い方を提案する」というお題でしたが、共用部だけでなく専有部にも及んだ提案になって。共用部と専有部の間の敷居が、ライフスタイルに着目することで下がってきたのを感じましたね。15年後というスパンで考えれば、共用部だけを、というテーマ付け自体が無効化していると考えていて、我々としても励まされました。本来であれば専有部も一緒に考えなければ共用部を考えることにならない。その人の暮らし方を考えるならば専有部の使い方を気にせざるを得ないんですよね。
荒:自由な発想で、といいつつ今のマンションって規制が多いですよね。前半はその制約を学ぶところにフォーカスした面もあって、U26メンバーも少し戸惑ったかなという反省もありましたが、逆に規制の理解がないとクリエイティビティは発揮できないのかなと。
猪熊:そういう前半の積み上げがあると、「何が解除されると暮らしを変えられるのか」というクリティカルな壁が見えてくる。単に夢を描いているんじゃなくて、具体的にどうした手順で変えていけるのか見えていたのが良かったですね。
荒:前期と後期でU26メンバーの変化はありましたか?
猪熊:変わりましたね。提案内容も、彼ら自身の雰囲気も。色々なメンバーが関わり合う中で、それぞれが役割を見出していきましたよね。
荒:お二人の声が時に励みに、時に課題認識に繋がっていたように思います。もっと自由に考えていいんだよ、と具体的なアドバイスで提案に奥行きを持たせてくれましたね。そうした「自由さ」と「制約」という部分で悩んでいたところに、発想を飛ばして良いんだよ、と言っていただけたのはとてもよかったです。
荒:「自由さ」と「制約」ってお二人が設計する際も出てくる問題だと思うんですけど、それらとどのように向き合っていますか?
仲:僕はある程度知識がついてきているので、次これ試してみたいな、というのが頭の中にいくつかあります。先ほどの話に通じますが、そうした境界線をどう突破していくかといったときに、「制約」を考えることも「自由」を考えることも同じことだと感じています。
猪熊:自分で勝手に「制約だ」と思っていることに気づく瞬間はすごく面白いです。僕は、自分がタブーだと思うことも想像してみるようにしています。すると3分の1くらいの確率で「実はありだよね」となる。そうやって日々壁を取っ払おうとしています。
荒:「自由さ」と「制約」の境界線を明確にする、という話がありましたが、ご自身の作品を手がけるなかで何か体験談がありましたら教えてください。
仲:先日、福祉施設の仕事をした際に、「施設」じゃなくて「住まい」を作りたいと考えたんです。施設臭をもたらす要因って自分の外側にあると思って、そういう要因を一つずつ見付けては新しいプランニングに落とし込んでいったんです。例えばご飯って、通常は中央集権的に大きな食堂が一箇所にあって、そこに集められては、厨房から出されたものを一斉に食べる。管理する側は楽なんですが、住んでいる人が移動しなくてはならないんですよね。自分の食器やお箸もないんです。福祉施設を構成する与条件のなかに、住まいの場を施設たらしめている悪いウイルスがあるはずだ、と思っていました。
荒:なるほど。とても自由な視点ですね。
仲:でも一方で、自分の中にもウイルスがいることに気がつくことになりました。大きなワンルームのリビングを作ろうとしていたんですけど、このことこそがだめなんだって気づいてからは、小さな居場所を敷地全体にたくさん作っていきました。それがヒューマンな空間に繋がったと思っています。施設らしさをもたらす要因は自分の外部にもあるけど、自分の内部にも潜んでいる、そんなことに気が付いた瞬間でした。住宅も施設として定型化してしまっているのではないか。マンションの玄関前を好きに使ったり、ファサードを好きに変えられたりすれば、結構変わる気がしています。
荒:コミュニティづくりというものはアウトプットが目に見えづらいですよね。だからこそHITOTOWAでは、与件の精緻な整理から入るんです。住民が何を望んでいるのか。いまコミュニティがどういう状況で、これからどうしていきたいのかを出来るだけ言語化する。昨年度のU26は、コミュニティという掴みどころがないものを無理矢理にでもハード面に落とし込むというテーマでした。願いとしては住民のニーズに答えながら、「自由さ」と「制約」の両方をうまく引き出しつつ、彼らひとりひとりの本当にやりたいことをできればいいな、と。そういう欲張りなプロジェクトでした。
仲:最後は等身大の提案が多くて、メンバーのプレゼンの声にも張りがあるように感じました。
猪熊:今すぐできる今のための提案というより、自分たちが歳をとったときにこうじゃないと嫌だ、という、自分ごととして考えた提案だったのがよかったですよね。自分が暮らす人、となっていたのが感じられましたね。
荒:昨年度は3つの課に分かれてそれぞれに提案を考えてもらいました(各プロジェクトの詳細は下記リンクを参照)。
荒:1課は、「生きがいとつながりのある、健康な暮らし」をテーマに、年齢・状況に応じたマンション内での住み替えのシステムを取り入れた「永住型健康レジデンス」を提案してくれました。住まいを選ぶ価値観の変化に着目して、「どこに、いくらで、誰と、どんな風に住むか」に限らず、「自分らしく生きられる場所、自分らしさの選択」、つまり「どのように死を迎えるか」といったところまで考えていました。マンションが終の住処になっていることも「自分らしさの選択」に含まれるとして、マンションコミュニティでお葬式ならぬ「お見送りパーティー」を行うイメージまで提案してくれました。
仲:住宅的には、お葬式となると「穢れ」と見なされてしまって、資産価値としてはマイナスになってしまうなかで、こうした提案が出たのは斬新でしたね。
猪熊:住まいの側から老後を捉えるってありそうで、ないですよね。ドイツって病院で亡くなる割合がそんなに多くないのに対して、日本は8割を越えているそうで。やはり、病院よりも家で亡くなることを望む人が多いというなかで、日本では「看取る」というのが医学的な行いになっている。でも「最期って人が見守るものでしょ」という根本的なところを真っ当に引き受けているのが良いなと思いました。我々も住まいを考える上でちゃんと向き合わなければいけませんね。
荒:いま団地の仕事が増えているのですが、「共用部がなにに使われていますか?」と聞いたらお葬式という答えがあって。月一でお葬式、と。
仲:葬式パーティーを成り立たせるためは建築デザインも貢献できると思う。例えばこの提案にあったようにマンション内での住み替えを許容して流動性を高めるとか。あるいは、閉鎖的な空間では無くて、動線の一部が膨らんだような、空間としての流動性も重要だと思います。集会所のなかだけで完結しないで、もう少し広がりのなかでやることができたら良いですよね。
荒:そうですね。共生していく仲間として楽しく見送っていってあげようよ、というマインドがよかったと思います。また、マンション内の住み替え促進アイデアも提案していて、触れてはいませんでしたが、最近増えている親と子の「近居」も可能にする仕組みでしたね。つぎに2課は、お二人とも気に入っていらした「未来貯金」の仕組みを提案してくれました。
猪熊:本当によく出来ていますよね。マンションのコミュニティでは、相当頑張らないと、現状維持を超えられないじゃないですか。今回の合意のシステムでは、貯金だけじゃなくて思いの強さも反映されるのがいいなと。貯金はしないけど合意はするよ、というのが可能になる。そうやって自由なことができる仕組みは面白いですね。
荒:使われていないキッズルームや、倉庫になっているフィットネスルーム。この2つをよく見かけるのですが、もったいないですよね。共用部の機能改善や用途変更って合意形成とるのが面倒だし、お金もない、というのも大きな要因だと思います。
仲:逆説的に僕が学んだのは、分譲マンションというのは、自分の暮らしを構成する場所なのに、手が加えられない仕組みなんだな、ということ。集合住宅って予定調和を問うところがあるじゃないですか。いさかいがないように予防線を張っていて、最近の僕たちや下の世代達が、やりたいように暮らしの場を作っていくというのは根本的に相容れない。この提案というのはすごい大きい問いをはらんでいて、提案内容の良さというのももちろんあるんですけど、自分の暮らしの場なのに、自分たちでコントロールできない、育んでいけない、という矛盾が非常に大きいことに気づかせてくれましたよね。従来的な集合住宅が持つ硬直性に対して、若い世代が大きなギャップを感じていると思いました。
荒:「未来貯金」は住宅関係者内での評価がとても高いのが特徴ですね。最後に3課は「二拠点居住」という提案。実際に仲さん、猪熊さんも二拠点居住を検討されていましたが、お二人の二拠点居住に共通しているのは「どうせその場所に行くから」というところ。趣味や出張でよく行っている場所との二拠点居住。別荘を持つこととの違いがそこにある気がしていて、別荘へ年にワンシーズンしか行かない、というのとはちょっと違う価値観ですよね。利便性を捨てているわけではなく、日常のなかで生活に変化をもたらしていくという。そんななか3課のメンバーにとっては田舎で子育て、都会で仕事、っていう二拠点居住。改めていかがですか?
猪熊:いろんな可能性があると思います。時代的には、移動もしやすくなるでしょうし、田舎のほうで家を手に入れるハードルが低くなってくると思うので、両方を使いこなした生活をする人が増えていくでしょう。そういう人たちをモチベートしたいな、とは思いますね。難しいなと思ったのは、ペルソナの設定といった部分。どういう人かによって全然違うに拠点の使い方になっていくはずで、それをどう描いて共感を得るのか、というところです。自分も考えなきゃと思いましたね。
荒:都会に対する住みづらさや子育てのしづらさみたいなところは正直に感じていて、それを田舎や郊外に求めている提案でしたよね。それを住宅というスキームでどのように解決していけるのかというのは、ターゲット設定にもよりますが結構なチャレンジかもしれませんね。
猪熊:ですが、人が動く前提で考える住まいを考えるっていうのは今後増えますよね。
荒:そうですね。分譲マンションもそうだし、そもそも賃貸もそこまで流動性は高くないじゃないですか。いろいろなライフスタイルを経験したいというニーズと住まいのあり方がどのように変化していくのか。ジャンルとしたら旅館業かもしれませんが。
猪熊:住宅業と旅館業の間くらいの話になってくるかもしれませんよね。楽しみですよね。
(後半に続く)
(取材・執筆/木村びおら)
「Neighbors Next U26 Project」は、2016年度概要発表&新メンバー募集しています。募集の詳細はこちら。4/10(日)、4/20(水)には、2016年度U26説明会も開催されます。
今期の説明はもちろん、2015年度からの継続メンバーによるリアルな体験談や、参加者での楽しいワークショップなど、盛りだくさんな内容です。
▷説明会
4月10日(日)16時~
場所:東銀座
▷説明会
日時:4月20日(金)19時半~
場所:東銀座を予定
こんな人に向いています。
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