2016.8.17
2016年度、マチノコトは「Neighbors Next U26 Project」のメディアパートナーを務めています。マチノコトでも「Neighbors Next U26 Project」の活動の様子をお伝えしていきます。原文はこちらから。
三井不動産レジデンシャルのCSV活動の一環としてスタートした「U26」プロジェクト。26歳以下の世代がマンションにおいて、将来の日本の社会課題を解決するソリューションとなるコミュニティをつくりだしていくことを目的に活動しています。
今年度の第3回目の活動では、WAT代表の石渡康嗣さんをお迎えし、人が集まるカフェの仕組みづくりについてお話を伺いました。
石渡さん:20代のはじめはNECで働いていました。「何か違うな」と思って28歳のときに辞め、友人とフットサルコートとカフェの仕事をしようと起業しました。起業したもののこれといった仕事がすぐにあったわけではなく、再び就職することに。
ブランドと食の世界を学びたくて、当時伸び盛りだったスターバックスコーヒージャパンに入り、店舗の予算を管理する仕事をやっていました。全店舗の予算を強引にエクセルで管理して、それで人の人生を左右していたのかと思うと、非常に怖い仕事をやっていたなと思います。
2003年に改めてフットサルコートとカフェを運営するチャンスを得て、スターバックスでの勉強を終えて 、東陽町にはじめてカフェをつくりました。フットサルカフェ「KEL(ケル)」という名前で、フットサルコートの横に、フットサルが終わった人、もしくは始める前に何かチーム同士の人が話を出来る場所が欲しいね、ということで始めました。OPENした2004年当時、そこをすでにコミュニティカフェと呼んでいました。
当時のカフェカルチャーは今より混沌とした、楽しいものでした。文化的であり、個性的な人たちが表現の場としてやっていました。僕は、フットサルコートの横に、そういう文脈のものを作りたかったんです。
今のカフェって、ファミレスに近いですよね。出してるものはどこも同じ、やってる人も機械的に働いている。そういう今のカフェとは違う文脈で、「KEL」を運営していました。コミュニティの場は作れたと思うんですけど、それってあんまりお金にならないんですよね。我々はそのコミュニティを頼りにたくさん投資をしたのですが、大きなやけどを負いました。
その後、豊洲に「CAFE;HAUS」という大きなカフェを作るプロジェクトに関わりました。ららぽーとが出来て数年経ち、まだまだ発展段階の街に、豊洲の人達が集まれるカフェが欲しいという話をいただいて。さらに幾つかの店舗開発に携わらせていただいた後、2014年にWATという会社をつくりました。
今やってるものでいうと、蔵前に「Dandelion Chocolate(ダンデライオンチョコレート)」という店を作らせていただきました。これも同じく、新しい価値を持った素晴らしいブランドで、日本に進出するのに値すると思ったので今参画させていただいています。こちらのほうは店舗開発から今マネージメントまでやらせていただいています。これはカフェではなくチョコレート屋です。
石渡さん:WATでは百貨店のお仕事もさせてもらいました。
日本橋三越さまと一緒に仕事をさせていただいたことがあります。70歳、80歳の資産家が億の単位で買い物されていたと聞いています。それが「外商」文化でした。ただ、人々の価値観も消費行動も変わりました。そこに彼らも大きな危機感を持っていて、新しいものを提供する場を提案させていただきました。外商サロンや催事コーナーがありがちな、「百貨店7F」に、モノではなくコトを売るカフェを作ったんですね。
ただ、「業態」って、買ってこれるんです。僕らみたいな業者を入れれば、場所は簡単に出来るんですけど、残念ながら、場所は変わっても人は変わらない。百貨店で働くすべての人の意識までは変えられないというのが、このプロジェクトを通じて我々が学んだことでした。
石渡さん:2014年はブルーボトルコーヒーというすばらしいブランドの日本上陸に携わりました。僕の担当としては日本にブランド持ち込み、日本法人を設立し、清澄白河と青山の店舗二つを店舗開発させていただきました。
ブルーボトルはサンフランシスコで開業し、ただひたすらコーヒーについて追求していったら、その土地のコーヒー文化も開いてきて、店舗数もふえていったんですね。彼らは日本のコーヒー文化にインスピレーションを受けていて、日本から色んな事を吸収したいというニーズもあり、そこで東京進出が現実になりました。
ここがちょっとミソなんですけど、彼らがやっていることは、コーヒー屋さんなんですね。僕が思う広義の「カフェ」ではない。ここでコミュニティが生まれるかっていうと、いま話したいこととはちょっとニュアンスが違うんですね。コミュニティとか会話を能動的に作るのではなく、ここはコーヒーの目的型の店。
それでは「カフェ」って何なのかっていうことですが。僕がもしカフェをつくるなら、そこはコーヒーだけではなく、人と人の会話が生まれるような場所でありたいと思っています。
石渡さん:茅ケ崎市の浜見平という場所に「CAFÉ POE」をつくらせていただきました。茅ヶ崎駅から歩いて30分ほどなので、決して良い立地とはいえません。70年代、多くの人がこの地のUR団地に入居し、日本の経済成長を支えました。現在その皆さんは70歳80歳になられているんですね。
「周辺住民のみなさまが来れるような場所を」なんて、気軽い気持ちでスタートさせてしまいました。確かにシニアなお客様は多いですが、おじいちゃんとおばあちゃんのカップルは少ないという現実。その想像力の弱さには我ながらがっかりでした。そんな状況でここで仕事をしてしまっている甘さを、始めて2、3か月ですごく思い知らされましたね。
ただ、渋谷のような大繁華街で、圧倒的な不特定多数の人を相手にするのではなく、いつも来てくれる特定少数のお客様を相手にしている方が、なんぼか心を傷ませないいい仕事ができるな、という満足感はあります。
石渡さん:大崎で2015年10月にオープンしたばかりなのが本日のこの会場、「Cafe & Hall Ours (アワーズ)」です。
この街はもともと小さい工場やソニー関連の起業がたくさんあった場所ですが、東京という街は経済原理上どんどん高層に伸びなければいけないんですね。それでこのように高層化された新しい街が開発されました。でも、この「ours」だけ一階建てなんですよね。
石渡さん:今回この「ours」がそんな経済原理から外れるところにも色々理由があり、ひとつは都の助成金があります。こうした場をつくるのにお金が出る条例があるそうなんですね。
カフェはもともと儲かるものでもないし、せっかく与えられた場所で「何ができるか」「ここに何があると喜ばれるかな」「何であれば自分として誇りに思えるかな」と考えることを重視したいと思っています。
気付いた方もいらっしゃるかもしれませんが、一個一個のテーブルが大きい。これは飲食店の経済原理からするとNG事項。この場所の目的に合わせてこうしています。そこまで売り上げを追求しなくて良いとなったときに、4人でゆったりと会話ができて、紙を広げてもコーヒーカップがじゃまにならない大きさ、ということで設計してもらいました。他にも、赤ちゃん連れのバギーのお客さまにやさしい通路幅を確保したり、経済原理から外れたことにチャレンジしています。たまに後悔する部分ではあるんですけど(笑)、でも我々はこのテーブルサイズに誇りを持ってやっています。
荒さんと一緒にやらせていただいているComma, Coffee.(コンマ コーヒー)は、CAFE POE(カフェ ポー)や、Cafe & Hall Ours (アワーズ)と違い、月々の売り上げ目標の規模を小さめに設定している店舗です。
ポーやアワーズは、どちらかというと計画者目線で作ったカフェなんですね。色んな人が絡むと色んなお金を払わないと駄目なんですが、今回の場合はビルドアップで、ここに入るスタッフが作れることだけで回している。
出来る限り計画しないで、余白を残しておくことで、お客様の顔をみながら売り上げを作りながら内容を変えていこうっていうのがComma, Coffee.(コンマ コーヒー)の僕的なコンセプトでした。だから僕はComma, Coffee.(コンマ コーヒー)に関してはほぼ何もしていないというのが現実です。
今後の予定も少しだけ紹介しておくと、今年8月には、U26プロジェクトのオブザーバーでもある東京R不動産の林さんとか東京ピストルの草彅さんと一緒に、「下北沢ケージ」という空間を造ります。僕は飲食担当として参加しています。
石渡さん:「カフェ」っていうのはもうオワコンじゃないかって思っています。そもそも僕は古い世代の人間なんで、「カフェ」っていうものに対して幻想を抱いているんですね。
スタッフはかっこよくあるべきだ、音楽もキレキレ、飯もお酒も最高においしい、朝から晩までやっている、そんな店が近所にあるといいよね、と。20年前はそれが成り立っていました。「Lotus」や「Bowery Kitchen」といった化けものみたいに楽しかったカフェがあり、僕らはその背中を追ってました。
かつてのようなカフェのスタイルで、かつてのような栄光はもう難しいなぁと考えています。
業態は専門化が進み、オペレーションは標準化されていきます。経営者は経営の安定と引き換えに、スタッフに難しい要求をしなくなりました。その上、スタッフの収入面での環境もよくはないです。そんな中で人を育てて、一人前にしていくのはとても難しいです。
よほど志の高い人でないと、カフェのかではやっていけない。色々考えてくると、我々が考えている広いスペースでコミュニティもできる場所があって、みたいな「カフェ」は、僕はもうオワコンだと思ってます。
石渡さん:僕がコンマやポー、アワーズに活路を見出しているのは、不特定多数の店前通行量の人達を相手にするのではななく、特定できる少数の人が目的をもって来てくれるという点です。
店舗用の物件についても、例えばコンマコーヒーは地域に一棟だけ残された団地でした。リノベーションして「ひばりテラス118」となって、コンマが成り立っているんですね。都心で面白い物件を見つけるのはとても大変ですが、ちょっと郊外にいくと結構発掘されます。
都心でカフェをやろうとすると、アルバイトがすぐ辞めちゃうんですよね。多くのアルバイトさんでまんべんなく回すために、だれがやってもブレのない、ボタン一個で済むようなオペレーションにせざるを得ない。
そんなおもしろみのないことをやるくらいだったら、一人か二人で出来るオペレーションで、その人の個性で表現できる素晴らしいものを提供したがなんぼか合理的。その地域に安定的に暮らしたい人を社員化したほうがなんぼか良い。
そう考えると、大量に流通して大量消費しているものよりも、地域で生産して地域で流通しているもので、地域にいる人に消費してもらうってほうがなんぼかリーズナブルじゃないかなと。
つまり都心で僕が思い描いていたようなカフェはもう成り立たないけれども、地域においては、このピースが上手くはまれば、出来る可能性があるんじゃないかな、って。
でも勘違いしないでくださいね、絶対儲からないけど自分がやりがいを持って働いてやれる分ぐらいはあるんじゃないかなという考えです。
石渡さん:そもそもコーヒー1杯=500円とかって誰が決めたんでしょう。飲食する行為を原価から算出するやり方だけが全てでない気がしています。従来的に、提供物一つの対価をいただくことだけがカフェの仕事でないと考えると、同じ仕事をしていたとしても編集次第で成果はまったく違ってくるのではないかと。
こういう模索って、都心でやってるとただただ忙殺され、スタッフのモチベーションもどんどん劣化し、最初何をやりたかったんだっけ?みたいな感じになるんですけど、都心外に行くと何かチャンスがあるんじゃないかなって思っています。
まだ答えにたどり着いていないですが、そんなこと考えながら「コミュニティカフェ」の仕事をやっているっていうのが、今の私です。
質問1:今回はマンションの共用部におけるコミュニティカフェの運営ということで、集合住宅にフィットした店舗の経営になるのですが、ゴールや目標をどこに置くのが良いのでしょうか?
石渡さん:そこに集まる人と、その場所なりの答えになってきますよね。やる人が現場で真剣に考えていくしかないと思います。持続していくためには、大きな損失を出さないことも重要です。大ゴケしないで、小ゴケを繰り返すことでで3、4年続けてやれば、色々と見えてくると思います。
質問2:経済性とコミュニティカフェとしての機能を両立させていくためのポイントはどういったところになるんでしょうか。
石渡さん:ひとつ重要なのは、カフェのオペレーションを回す人とは別に人を使うことです。ちゃんと人が話を聞けたりとか、ワークショップをやる人を設ける。カフェのスタッフの仕事はコーヒーを淹れることで、コーヒーを淹れてるときにワークショップなんかできないのが現実です。ここでもかなり数のイベントをやっていますが、カフェ自体のオペレーションをやりながら、同じスタッフがワークショップも運営するのはサステナブルではありません。
多くの場合、コミュニティカフェをやってほしいと言い始めた主がいるはずです。その主の要求はコーヒーを出すことだけではなく、コミュニティを作ってほしいって言ってることが多いと思います。そこで、クライアントには「コミュニティはただでは生まれません」、ということを理解していただく必要があると思います。
「カフェ」はオワコンなのでは? という疑問を投げかけながら、時代ごとに形を変えながら運営していくコミュニティカフェの可能性、そしてやりがいをお話くださった石渡さん。
このほかにも、カフェを経営するにあたっての実務面のポイントや、マーケティングについてなど、コミュニティカフェを実装していくにあたっての具体的なアドバイスを色々とご教授くださいました。
メンバー一同、コミュニティカフェの理想を描きながら、持続的に事業を運営していくにあたっての経済的な意識、マーケティングや現実的な実務面についての新たな視点を得ることができ、今回のプロジェクトへの意気込みをさらに高める機会となりました。
これからU26はどのような活動を見せていくのでしょうか。今後の展開にも乞うご期待ください。
前回のU schoolのレポートはこちら。
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