2015.10.12
人口約57万人と日本で最も人口の少ない鳥取県。日本でも代表的な海岸砂丘の鳥取砂丘や、『ゲゲゲの鬼太郎』生みの親の漫画家水木しげるさんの出身として、水木さんがつくりあげた独特の妖怪の世界観を生み出した自然や歴史ある建物を感じる場所としても知られています。
そんな鳥取県ですが、全国的にも課題となっている人口減少、少子化、高齢化といった問題に直面しています。同時に、地域の価値を再発掘し次世代に向けた文化を作り出すための施策として、この数年アートに力をいれています。もともと、鳥取は医師の吉田璋也さんが思想家の柳宗悦さんが提唱した「民藝」という考えに影響を受け、鳥取で民藝運動を起こした活動家として知られています。鳥取には古くから伝わる陶磁器や木竹工などの手仕事が盛んで、職人などとともにさまざまな作品を制作。山陰地方の古い民芸品などを集めた「鳥取民藝美術館」を設立するなどの活動を行っていました。牧谷窯や因州・中井窯、延興寺窯など鳥取の窯元が制作した器や生活雑貨などの民芸品を好きな人も多く、ショップなどで購入するだけでなく直接窯元に足を運ぶ人も多いとのこと。
現代美術にも通じるこうした民藝運動が盛り上がった地域であり、自然と中国や朝鮮半島から工芸品などさまざまな文化の窓口となっていた鳥取だからこそ、アートに対する感受性や作品制作のための環境が整っている鳥取という地域。アートに関わる人たちを積極的に受け入れ、アーティストが住みやすい環境づくりを地域が一体となって取り組むための「アーティストリゾート構想」を県が掲げているほどです。
そこで、積極的にアーティストを受け入れ、アーティストが地域で暮らしながらその地域の文化や人とふれあうなかで作品制作をする「アーティスト・イン・レジデンス」という手法をもとに、鳥取県内の個人や団体が国内外のアーティストを招へいする「鳥取藝住祭」を2014年から行っています。「藝住祭」と名づけているのは、近年日本全国各地で行われている「芸術祭」のように総合ディレクターがアーティストをキュレーションし、作品展示などを行いそれらを参加者が鑑賞したりしながらその地域の文化を体験する手法ではなく、アーティストと地域の人たちがともに作り上げながら、「藝術がある住まい」を作りながら、アーティストという外部の存在が地域の文化や歴史をそれまどとは違った観点から発想し、市民とのやりとりを通じて市民自らが地域の良さや魅力、価値を再認識したり、再構築することを目的としています。
「これまでの芸術イベントは、ある種の”ハレ”の日の活動。非日常だからこそつくり上げるものがあると思いますが、そのハレの活動ではなくいかにして”ケ”、つまり日常に藝術をつなげていくか。民藝という発想も、いかにして私たちの日常のなかに溶け込ませた名も無き器や生活雑貨などの作品を通じて、日常を彩ったり豊かにしていくかといった考えが含まれています。鳥取という地域だからこそ、その地に住んでいる人たちの日常に藝術がどう生きるかを考えるなかで、『藝術がある住まい』をもとに日常を拓いていくかを感じてもらうことをコンセプトとしています」
鳥取藝住祭について語る、2014年から総合ディレクターを務めている林曉甫さん。藝住祭の運営の仕方も、まちづくりなどに取り組んでいる県内各地の個人や団体が主となり、それぞれの地域で展開するプログラムを企画。作品の滞在制作や作品展示、ワークショップやフィールドワーク、イベントなどさまざまな企画を展開しています。
鳥取藝住祭をきっかけに県外から鳥取に移住していたアーティストがいたり、築100年以上もの建物や大正時代から続く蔵を使った展示などや建物をリノベーションし積極的に地域と関わるゲストハウスやコミュニティスペースが鳥取県内で増えてきています。また、移住してきた人や鳥取に住み着いた人が地域に拓いた独特なカフェや本屋をオープンする若い人たちも生まれてきており、そうした場所を中心に新たな地域コミュニティが生まれ始めています。こうした文化的な取り組みや新たな価値を作り出す試みが増え始めています。
先日には、東京・中目黒で鳥取藝住祭主催のなか、東京で活動する複数の団体が協力してイベントや展示が行われました。「地域のかたち ー鳥取でつくり、暮らし、育むことー」と題したイベントでは、鳥取藝住祭2014に写真家の松本美枝子さんやアーティストの中島佑太さん、いままさに鳥取藝住祭2015に参加している建築家のmi-ri meterさんらによる、それぞれの鳥取での滞在制作についてやアーティストとして鳥取の魅力をどう感じたかを話すトークセッションや、ゲストハウスやカフェが併設された「たみ」などを運営するうかぶLLCの三宅航太郎さんや八頭郡八頭町隼地域でカフェ&コミュニティースペース「HOME8823」を運営し、東京と鳥取のに拠点生活を行っているデザイナーの古田琢也さんらを呼んだトークセッションなどは行われました。
トークでは、アートそのものが地域を活性化するものではなく、それまでつながりのなかった人たちをつなぐ機能があることや、問題提起としてのアートの機能こそあれ、アートそのものがなにかの課題解決を生み出すのではない、という言葉は印象的でした。昨今の芸術祭を行っていくなかでも、アーティストを呼べば地域の問題が解決すると安易に考える風潮があることがありますが、そうではなく、アートをきっかけにしてそこに住む人らが持っていたそれまでの視点や考えに変化を与えるということが本質かもしれません。同時に、アートがもたらす影響や結果が即時的なものではなく、長い時間をかけて積み上げられるということも意識しなければいけないかもしれません。
人の考えはすぐには変わらない。けれども、ちょっとしたことの積み重ねによって後から振り返ったときに大きな変化となっていることは多いです。アートは遅効性のあるメディアだという考えをもったうえで、いかにして日常を豊かにする試みを行っていくか、地域に拓くことの可能性を考えることが重要といえます。
「藝住」というコンセプトをいかにして日常のなかに浸透させていくか。藝術をもとに日常を拓く試みを行っている鳥取という地域。ぜひ、11月いっぱいまで行われている鳥取藝住祭の各地のイベントに足を運んでみたり、鳥取にある個性的なカフェやゲストハウス、コミュニティスペースなどに、ぜひ足を運んでみてはいかがですか。
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