2016.2.8
「魅力のある地域の条件」を考えたときに、みなさんはどんなものを思い浮かべますか?
アクセスの良さ、豊かな自然環境、雇用の有無など、家族の存在やキャリアによって、求める部分は変わってきます。
僕は、何よりも大事なのは「地域を盛り上げる人材」の有無ではないかと思います。
東京や京都・大阪、福岡あるいは地方でも移住や地域独自の催しを通じて、全国各地に自分たちの魅力を発信する地域が数多く見られるようになりました。
ですが、様々な活動が存在しているにも関わらず、上手く発信できていないせいで、地域に存在している魅力的な人たちが、外からは「いない」ように見えてしまう地域もあります。
その代表例と言えるのが名古屋です。経済基盤が強く、市民による地域の情報発信の大切さを感じる機会がなく、この土地でどんな活動があるのか、外からは見えにくくなっていました。
名古屋の状況に警鐘を鳴らしたのは、株式会社「R-Pro」の岡本ナオトさん。
2009年にプロモーションデザイン・プロモーションコンサルティングの会社として創業以降、2013年には防災事業部「yamory」、今年からは名古屋市西区の上小田井でまちづくりを軸としたエリアプロデュース「Oissu不動産」をスタートさせるなど、多岐に渡る活動を行っています。
岡本さんは、名古屋で活動するプレーヤーに声をかけ、彼らが一同に介する場「Rナシンネンカイ」を企画しました。「単なる新年会にはしたくなかったんですよ。」と語る岡本さん。今回の場作りに、どのような想いを込めているのでしょうか。
――「Rナシンネンカイ」を開催した経緯を教えてください。
岡本さん:「名古屋には、起業家が育たない、目立ったNPOがないと言われるなかで名古屋という土地にこだわらず、もっと全国や、世界で活躍する文化や潮流が生まれる場を作りたいと。
名古屋の人たちは、奥ゆかしく、東京や世界にコンプレックスを持ってしまう人が多いのですが、『こんなに名古屋に面白い人がいるんだから、一緒にやっちゃおうぜ』という機運が生まれ、『2016年名古屋熱かったよね』と言えるような2017年の正月を迎えたい、そんな想いで開催しています。」
――参加者をゲストに迎えるトークセッションの場も設けられました。「珈琲」、「まちづくり」、「バスケ」、「WEBメディア」と、名古屋ではあまり聞けないテーマが用意されています。
岡本さん:『珈琲』のような親しみやすいカルチャーから、今をときめく『WEBメディア』と、テーマに幅を持たせることは狙いでした。スポーツを通したまちづくりから、岡崎、東吉野の仕掛け人のお話まで魅力的なコンテンツが揃っています。
彼らをゲストとして呼んだわけではなく、集まった参加者のなかから、ピックアップして『話をしてくれないか』とお願いしたんですが、参加者全員何らかの『プレイヤー』でお客さんがいないんですよね。
面白い人たちとの出会いをここから始めて、何かを生み出すきっかけの場になればと思います。」
今回、「マチノコト」でレポートとして紹介するのは、「リノベーション」や「まちづくり」、「移住」をキーワードに行われたトークセッション「名古屋より岡崎!×名古屋より東吉野!」。
登壇したのは、愛知県・岡崎市の「NPO法人岡崎まち育てセンター・りた」で事務局次長を務める山田高広さんと、奈良県東吉野村で「オフィスキャンプ東吉野」を営まれる坂本大佑さん。
「Rナシンネンカイ」の企画者である岡本ナオトさんの司会によって、トークセッションは進行していきました。
山田さん:「不動産を買うということですね。
昭和40年代頃に建てられた集合建築は、みんなでお金を出し合って、家族や親戚と共同で住む形態を取っていました、しかし、土地の所有者も建物の所有者もばらばらになってしまい、誰かが『真ん中の建物だけ壊したい』と言っても出来ない状態が、生まれているんです。
不動産としての価値は当然低いし、不動産業者も仲介が出来ない。でも、そういった場所にこそポテンシャルがある。そうしたときに登場するのが僕で、先日も数十万円でビルを売買の交渉に入りました。そのビルは、1階に美味しいパン屋、2階に人の居住スペース、3階がシェアのアトリエになる予定です。
大衆的には価値がゼロでも、届くところに情報が届けば、その人たちが新たな価値をプラスしていく。逆にお金を出しても欲しいものが買えない時代が来ているのかなと思います。」
坂本さん:「『シェアオフィス東吉野』は、小学校の校長先生が所有されていた築70年ぐらいの古民家をリノベーションしました。
東吉野村は、自治体として存続可能な人口にぎりぎりの2000人の村で、村長も国と県に働きかけながら、移住・定住の事業に取り組むなかで、「シェアオフィス東吉野」も国・県・村3つのお金で改修工事をしました。
オフィスの前には上流部にダムのない関西でも珍しい川があって、川のせせらぎで目が覚める。鮎やアマゴも取れるし、少し行くと温泉もあるんですよ。
わざわざこの環境を求めて来る方もいらっしゃって、去年1年で1100人ぐらいの方が来てくれました。そのうち300人の方がシェアオフィスの利用のために来てくれて、その約3割は海外の方でした。
奈良という土地の持つ力もありますが、みんな街の中にあるものに飽きてきていて、東吉野にある『よくわからんもの』に惹かれて来ているのかなと実感として思います。」
山田さん:「『土日何してますか?』と聞かれたときに、『こんな面白いことしてるよ』って言える方はいますか?
僕らって、『遊ぶところ難民』なんですよね。土日に子どもと、どこで遊ぶか考えたときに選択肢がない。
人が作った公園やカフェではなくて、自分の場所を家以外にどう作っていくか。そう考えたら、今僕の楽しいことのもう一つは公園です。公園をこれからリノベーションしていきたいと思っています。」
――公園ってそんなに重要なんですか?
山田さん:「商店街に一つお店を入れたとしても、そこだけ流行ってしまえば、周りのお店からお前の店だけ儲かっていると怒られてしまう場合がある。
だけど、公園は、商店街や街の人たちが共有して持ってる財産で、公園にたくさん人が来れば、自分のお店にどれだけ人が来てくれるか、自分の好きな人がどれだけ街に来てくれるか工夫を考えるようになる。
一番の公共であり、みんなのものである公園は大事だと改めて思います。」
坂本さん:「去年、1年で約4組移住してくれました。東京でも活躍するカメラマンのご夫婦、大学の博物館の職員さん、バリバリの革職人、ニューヨーク在住のデザイン事務所でクリエイティブディレクターをやっている外国人と多様です。移住希望の人は、今も、3組ぐらいいますね。
『なにもない』が、良いのかもしれません。クリエイターのコミュニティは良い意味で狭くて、「ここ良かったからお前らも行って来いよ」と誰かが言うと、すぐに波及していく。層が薄いから刺さるスピードも速いんですね。
移住後の孤独感を解消する点においては、オフィスキャンプがあるということも、精神的柱になっているようです。近くに役場もあるから、すぐ声もかけられるし、移住者同士でもコミュニティを形成していて、村の人たちもそこに入っていっています。」
――2000人の村人は移住者をどう思ってるんですか?
坂本さん:「びびってるんじゃないですかね。(笑)
でも、そこは村長が口を酸っぱく、『こういう事業をやるから、あなたの隣の家に若い子がいきなり住むかもしれない、だから温かく迎えてやってくれ』と村人に村長が何度も言ってくれてるんですよ。
東吉野村には、村営放送があって、テレビから、村長が『温かく見守ってくれ』と言ってくれている。村長が率先して言ってくれるのは大きいですよね。」
――最後に一言ずつお願いします。
山田さん:「名古屋で面白いことしにくいなと思ったら、地方に来たらいいんじゃないかと。受け入れ態勢を作るのは僕らの役割なんで、いつでもお待ちしています。」
坂本さん:「移住は、人の一生を左右すること。どこで暮らすかというよりは、誰と暮らすかが大事で、『誰』の1つにオフィスキャンプが数えられればいいなと思います。」
今回、共有された岡崎と東吉野の事例は、多くの参加者の関心を惹いているようでした。
都市圏よりも、余白の多い郊外、田舎と呼ばれた地域は、アクティビティも豊富で、先に移住した人たちが築いたコミュニティもあるため、新たに移住しやすいというメリットがあるようです。
地域の新たな情報を知ることで、生活において出来ることが増えていく。
たとえ移住をしなくとも、今回のトークセッションでテーマとして用意された「珈琲」や「バスケ」、「WEBメディア」など、これまでの生活では知らなかった情報を得ることで、地域の暮らしは楽しみを増していくのではないでしょうか。
集まった参加者たちのなかには、近いエリアで活動し、お互いの存在を認識しつつも、実際に会ったことはない人たちも見られました。
それぞれの活動が可視化されることで、異なるジャンルを掛け合わせた新たな取り組みも期待できそうです。1年後には名古屋エリアで、どんな活動が展開されているのか、今後が非常に楽しみになる1日でした。
「珈琲」や「バスケ」のトークセッションの様子は、この日「WEBメディア」のトークセッションで登壇した地域メディア「IDENTITY名古屋」に掲載しています。よろしければこちらからご覧ください。
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