マチノコト

2016.4.15

既存のまちのコンテンツをつなぎ合わせるコミュニティデザインーーHAGISOの宮崎晃吉さんとの対話から

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マチノコトでは、今年2月より「マチとの関わりたい」「マチに対して何かアクションを起こしていきたい」と考える人たちで集まり、話しあう場としてオープンダイアローグを毎月開催しています。

1回目に「holiday」の谷さん、2回目には「HAB-YU」の高嶋大介さん、そして、3回目には東京・谷中を拠点として「HAGISO」を運営する宮崎晃吉さんをゲストにお呼びしました。

宮崎さんには、10年以上も拠点をおく谷中で、どのような経緯でHAGISOをはじめることになったのか、2015年11月から開始した「hanare」とはなにか、設計士で場づくりに関わっている立場でのハードとソフトの関係性などについてお話をしてくださいました。

シェアハウス、葬式を経て、生まれた最少複合文化施設「HAGISO」

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HAGISOは築60年の木造アパートを改修した「最小文化複合施設」

歴史を辿ると、谷中は元々、寺町でした。そんなお寺と住宅が立ちならぶ場所に「HAGISO」はあります。HAGISOのハギは植物の「萩」に由来するそう。実は、学生時代の2004年から2011まではシェアハウスとして、5〜6名で暮らす住居として利用していました。

2011年の震災を味わうなかで、“建物の記憶が消える”ことへの懸念もあった宮崎さん。大家さんも次の震災を危惧し、取り壊しが決まっていたHAGISOに対してなにかできないかと考えました。そこで2012年3月に開催されたのが「ハギエンナーレ」でした。

「建物をまるごと作品にしよう」「建物の葬式をしよう」という二つのテーマのもと、HAGISOに死化粧をほどこして、わいわい踊ってやって壊せたら、との想いがあったそう。3週間の会期中には、SNSの拡散で見聞きした知人や、通りすぎる人々たちの参加も含め、計1500人が集まりました。

その盛り上がりを目の当たりにした大家さん、そして、宮崎さん自身もまだこの場所に可能性があると感じたこともあり、さまざまな障壁を越えながらも、2013年3月に“最少複合文化施設”として生まれ変わったHAGISOがオープン。

文化複合施設としての比較

文化複合施設としての比較

ランニングコストが高く、使われていない文化複合施設も全国的に多いなか、自分でつくってしまおうという意味あから名付けた「最少複合文化施設」。また、公共施設的な役割ができるような場所にしようという想いも。現在は、カフェ、ギャラリー、レンタルスペース、アトリエ、設計事務所、レセプション(hanare)がHAGISOに入っています。

イベントも定期で行われており、毎月若手アーティストの展示をしながらも、トークイベントや映画の鑑賞会、パフォーマンスカフェ(パフォーマンスを買えるカフェ)などを開催。ダンサー、音楽家、写真家たち自然と集い、彼らの拠点ともなりつつあります。

宮崎さん「ただの商業施設ではなくて、『カフェも究極的には公共の空間』で、ちょっとお金を払えば、その場所をシェアできる。その延長線上にいろんな活動をいれるようにしています」

あるときは劇場に、あるときは映画館に、そしてまたあるときは図書館に(谷中こども文庫)など、場所としての表情を変えていきます。カフェを中心につくられる、そういったいくつものHAGISOのシカケが、本来は絶対出合わないような人同士が出会うきっかけを生み出しています。

 負荷に付加価値に、まちに点在する宿「hanare」

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2年ほどHAGISOを運営するなかで、「地域の核になってきているじゃないか」と感じはじめた宮崎さん。これを中心にまちの見方を変えられる、まちを再編集できるんじゃないか、という考えのもと「hanare」を2015年11月にオープンさせました。

hanareでは谷中内にある空き家をリノベーションして、宿泊施設を点在させています。大浴場は銭湯、レストランは地元の食堂、文化体験は稽古場、レンタサイクルは自転車屋、など「既存のまちのコンテンツをもう一度つなぎ合わせるとことで、大きなホテルに見立てる」をコンセプトに。

「レショプションから歩く、近所の人に挨拶してくれと言われる、風呂までわざわざ歩く、ご飯も自分でいろいろと選ばなくちゃいけない」など、それらはhanareユーザーからすれば“負荷”とも取れますが、宮崎さんは次のように言います。

宮崎さん「『負荷を付加価値に反転させること』が大事だと思っています。宿泊施設へと移動することで、まちのなかを住んでいるように歩けるし、まちの人としゃべれるし、HAGISOで朝ごはん食べられますよね」

そういった負荷に対しては、どういう風にデザインの力を使って解決できるかを課題においています。

例えば、谷中マップを自分たちでつくっています。まち歩き用の「デイ版」と飲み歩き用の「ナイト版」とマップを二種類で分けたり、別に配る銭湯リストにはお湯の熱さなどお店毎の個性を紹介する徹底っぷり。HAGISOの朝食では、店長が旅のなかで見つけた地方の食材を使ったメニューを季節毎に提供するそう。旅行者の次の旅への興味を刺激します。

宮崎さん「来てくれる人には、選ぶ楽しさを提供したいんです。また、提供の仕方で負荷をポジティブに変えられます」

負荷は、言葉を換えると、手間ひまでもあります。そこに新たな価値を見出します。

ハードだけでは限界がある

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宮崎さんの卒業制作での作品「The frolic communication of territory」。一部の色の上でしか、人は動けないという世界観をかたちにしました。

設計士として、ハードをつくりながらも、ソフトについても企画・運営している宮崎さんですが、「建物だけでできることは限界がある」と感じているそう。

宮崎さん「建築がそれ寄与するのは明らかなんだけど、それだけでは十分ではない。それをどうオペレーションしていくかってことをデザインしたくて、それができるチャンスだし、ちょっとリスクとってやるかという感じでした」

とHAGISOをはじめるときの心境にここで触れていました。「ハードだけじゃなく、ソフトも」という考えのルーツを辿っていくと、宮崎さんの学生時代の卒業制作の話へ。建築科でハードについての制作する学生が多いなか、ソフトについての制作を進めたそう。

宮崎さん「箱のなかに人が入ってて、人が動かして情景を変えていく。建築が物理的に人を規定するだけじゃなくて、情報だったり、人との関係性で、空間が規定されることに興味があって」

場づくりにおける「ハードとソフトのバランスをいかにして取るのか」という問いを含むようなお話でした。

消費だけで終わらなせい「攻めの保存」を

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谷中エリアは、最近では観光熱が上がっている地域でもあります。ただその現状は「ちょっと消費モードになってきている」と感じる地元の人も少なくないそう。商店街には八百屋さんや魚屋さんがなくなり、お土産屋が増えているとか。

宮崎さん「自分たち(HAGISO)が谷中熱をあげちゃって、それに加担してないこともないけど、実際には、なにもしなくてもいずれは陳腐化してしまいます。そのなかで、ちゃんと本物を見つけて、提供するように、価値を一段あげてあげることに寄与できないかなと」

本当の谷中の価値はなにで形成されていて、評価されるべきところはどこなのかを地元の人がまず知れること。そして、短絡的に解釈する人をいかに減らせるかは「攻めの保存」につながると宮崎さん言います。その戦略づくりのためにも、HAGISOのようなボトムアップの動きだけでなく、最近では地域政策などのトップダウンの動きにも携わるようになったそうです。

まちに自分が欲しいものをつくり、結果、まちづくりへ

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最後に、まちとの関わり方、アクションの起こし方について。宮崎さん自身、10年以上を谷中で住み続けるなか、お子さんが生まれライフステージが変わることでまちの見え方が変化してきたそうです。その上で「自分たちが欲しいものをどのようにつくるか」について話します。

宮崎さん「自分のためにやればいい。そうすれば、自分でリスクをとろうとなります。HAGISOは、自分自身がわくわくして、こういう場所がほしいと思い、自分を止められずにつくりました(笑)。

そうやって、能動的なマインドに変わってくると、自然とまちづくりのような動きにもなっていくのではないでしょうか」

もちろん最終的には、プライベート(私的)とパブリック(公的)のバランスを取っていく、という意味も込めての「自分のために」。まちで動きはじめるために、どんな気持ちからスタートするといいのか、どのようにまちを眺めればいいのか、そのヒントをHAGISOを通じて宮崎さんから学び、参加者同士が話し合える時間となりました。

次回、4回目の「マチノコトオープンダイアローグ」のゲストは、ご近所SNS「マチマチ」を運営する株式会社Proper代表取締役CEOの六人部生馬さん。「ご近所とのつながりを通じて、地域の課題を解決する」というビジョンを持ち、ご近所SNS「マチマチ」というサービスを開発を進めています。

イベントの情報は「Meetup」上のオンラインコミュニティでもお知らせしています。よろしければこちらにもご参加ください!

大見謝将伍

大見謝 将伍

プランナー。 1988年生まれ。伊平屋島(沖縄)出身。東京-沖縄の2拠点で、カクテル - 場 − メディアづくりを軸とした、つたえる-つなぐ-まぜるための活動を「coqktail」でやってます。 「おきなわ移住計画」代表 -「水上家」管理人 - 「京都移住計画」広報、「焦点街」編集長など。自由研究テーマは、移住 - 民間伝承 - はたらき方 - 商店街です。

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