2015.5.7
日本各地の農村や集落で、少子高齢化の要因となる若者の人口流出が進んでいます。
若い人が地元に根付かない要因には、若い人を雇用する企業が少ないことや、他県からの移住者を受け入れる基盤が整っていないことなどがあげられますが、地域で生まれ育った若者が、地域独自の魅力に気づくことができないということも理由としてあげられます。
こうした課題に取り組もうと、三重県・伊勢市の大学生が大学生の目線から、伊勢志摩の魅力を同じ世代の若者や地域の人々に届けていくフリーペーパープロジェクトが始まりました。
プロジェクトの詳細を紹介する前に、まずは三重県が抱えている課題について少し紹介します。
三重県は南北に長い土地。その土地では、北と南で人口・高齢化率や産業の集積状況、経済格差が大きく異なる「南北問題」が長年問題となっています。
名古屋という都市や関西圏から距離の近い、交通面に恵まれた北部が産業や人口の集積を見せる一方で、南部は豊かな自然や歴史・文化資源を持ちながらも、交通網の弱さから地域活力をうまく高めることが困難でした。
近年は南部の地域経済において、これまで高いウエイトを占めてきた農林水産業や観光を取り巻く環境も、地域経済と社会の基盤が脆弱になることよって厳しい現状になってきています。
伊勢市は平成17年から22年までの5年間で三重県内の各市町村で一番となる毎年約1000人が都市部へ流出しており、志摩市も県の準過疎地域市町として登録されています。
今回のプロジェクトの舞台となる伊勢志摩は三重の中でも、若い世代の人口流出を課題としているエリア。
三重県、そして伊勢市は若者が仕事を求め都市部へ離れることで加速する少子高齢化の流れを危惧し、この流れに歯止めをかけるべく、さまざまな取り組みを行っています。
三重県は人口の過疎化が激しい尾鷲市や鳥羽市など中南部地域の9つの市町村を「過疎地域市町」として登録しています。そして、「南部地域活性化プログラム」と称して、13市町村を対象に、雇用の確保や定住促進の流れを強めることに取り組んでいます。
三重県は地域連携部を創設し、移住交流ポータルサイト「ええとこやんか三重」を制作。県外の移住希望者へ向けて、各市町村の魅力を発信。移住セミナーや田舎暮らし体験などの情報を発信しています。
伊勢市も地域への応援事業として行政の地域づくりや人づくりの取り組みに賛同した人々へ寄付を募る「伊勢市ふるさと応援寄附金」制度を整備するなどの動きを見せています。
伊勢市に本部を構える皇學館大学も伊勢市と連携。地域の活性化と人材の育成に貢献すべく、商店街と学生がタッグを組んで商店街活性化に取り組む動きや、大学と県と連携して地域が抱える課題について住民と大学生が議論する「学生」×「地域」カフェを運営するなど、さまざまな活動が行われています。
今回、地域クラウドファンディングサイト「FAAVO」で資金の募集を行っているフリーペーパー製作プロジェクトは、こうした地域の課題に対して大学生たちなりの視点からアプローチしようというもの。
「フリーペーパー」は特定の読者を狙い、無料で配布する情報誌。配布を特定の地域に絞り、その地域に暮らす人々に役立つ情報を掲載することで、地域への情報発信における有効な手段として活用されます。
最近では、大学の社会貢献の役割が問われる中で、民間企業や官公庁、地域との連携を図った「産官学民」共同でのフリーペーパー製作がさまざまな市町村で行われています。
皇學館大学の学生たちが製作しているのは、伊勢志摩で生業を見出し、仕事を行う人々へインタビューを行い、地域の仕事と暮らしを人々に伝えようとしています。
地域の隠れた魅力を若者の視点から切り取り、同性台に伝わりやすい言語へ翻訳して発信するフリーペーパーは、地域の魅力を若者に伝えていく上で重要な役割を担うと考えられます。
フリーペーパーを制作する学生たちは「伊勢をあなたに届け隊」と名乗りながら活動。中村葵さん、松島史さん、佐藤祐也さんの3名の学生が中心となっており、皇學館大学の岡野裕行先生と三重県の会社案内や学校案内のデジタルパンフレットを紹介するサイト「marumie」の堀敬治さんがサポートしています。
大学生の彼らが目指すのはガイドブックに掲載されない伊勢志摩の魅力を若者へ届けること。伊勢で働く12人の職業人へ取材を行い、学生たちがまだ認知していない伊勢の仕事をフリーペーパーを通して伝えようとしています。
将来的には学生や若い世代だけでなく、伊勢志摩への移住を希望する人々へもフリーペーパーを届けることを目的としているそうです。
「伊勢をあなたに届け隊」がフリーペーパーを作るきっかけとなったのは、皇学館大学の岡野裕行先生が本作りに関心のあった学生へ企画を投げかけたこと。岡野先生は今回のプロジェクトについて、このようにコメントしています。
岡野先生「大学教員は学生と学外コミュニティとをつなぐ役目があると思っています。そのため、何か企画へのお誘いがあったときには、可能な範囲で学生に機会として紹介するようにしています。
特に本学は県内出身者が多く、実家から通っている学生が多いため、自宅と教室を往復するだけという過ごし方になってしまう学生も多いように感じています。それは学生時代の時間の過ごし方としてちょっともったいないように思っています。
もちろん、教室で学ぶことも大事なことではあるのですが、地域社会への視野を広げるためにも、学生のうちにできる限り「寄り道」をしてほしい。「寄り道」をすることで、学生のみなさんには教室で学んだことが実生活でもしっかりと活かすことができる、そうした経験をなるべくたくさん積み重ねてほしいと思います」
フリーペーパーのコンテンツの作成や取材など、普段の学校生活では、経験することのない機会は学生にとっても苦労が多いはず。そのサポートを行うのが、三重県内の学校案内や会社紹介を行うWebサイト「marumie」を運営する堀敬治さんです。
堀さん「地元の若者による地域のための活動が増えていけば、一度地元を出た人が戻ってくる気になるかもしれませんし、地元の学生が留まるキッカケになるかもしれません。
若者がつくるプロジェクトに、社会経験のある大人が軌道修正だけ加えてあげられると、これからもっと伊勢志摩の地域も盛り上がっていき、新しい仕事が生まれて雇用が広がっていくだろうと思います」
若者が持つ視点とエネルギーに、地域で知見を蓄積してきた大人がサポートにつくことで、プロジェクトはより魅力的になっています。
「FAAVO三重」での資金集めは、すでに目標金額を達成。
資金の募集は5月12日まで。支援を行うと、フリーペーパーで取り上げられた人々が手間暇をかけて制作した品々や、フリーペーパーが贈られます。このプロジェクトに関心を持たれた方はぜひ詳細ページをチェックしてみてください。
三重県では、三重大学の学生と津市が共同制作した地域情報誌「Loupe」など学生主導によるさまざまな取り組みが行われています。
みなさんがお住まいの地域でも、きっとその土地の新たな魅力を引き出す取り組みが行われているはずです。全国各地でこういった魅力が発信されていくことに期待したいですね。
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