マチノコト

2016.6.7

地域の情報を発信する意義とはーー仙台発ローカルメディアが集う「地域メディア公開編集会議」レポート

自分の住んでいる場所がもっと面白くなれば、日々の生活がよりよいものになるのに…。みなさんは、そう感じたことはありませんか?

自治体や民間主催によるライター講座の開講、地域おこし協力隊で「地域の情報発信者」募集の増加、多種多様なローカルメディアの立ち上げ…。近年、地域からの情報発信の担い手を増やそうとする動きが全国で高まっています。

以前マチノコトでは、岐阜県京都府での情報発信について紹介してきました。地域をうまく盛り上げていると感じる地域には、文字や映像の形にして情報発信ができる人が多いようなイメージがあります。

そんな中で、地域からの情報発信によって、本当にまちが盛り上がるためのメリットになりうる効果が出ているのか、気になる人もいるのではないでしょうか。

私の住む宮城県仙台市では、民間組織と自治体が協力して市民ライターを育成する取り組みに力を入れています。今回は、仙台でどのようにして情報発信者の育成を行っているのか、どのような反響があるのかについて書いていきます。

プロ協力の下、地域の魅力を伝えるプレイヤ―を積極的に育てる

仙台市市民活動サポートセンターでは、宮城の地元紙である河北新報社の協力を受け、記事を書くことや情報発信に関心のある市民を対象にした市民ライター講座が行われています。

5日間の期間で受講者は、座学と実習を通じ取材と記事執筆のいろはを学びます。執筆した記事は、受講者同士の合評会や現役記者による添削によりプラッシュアップがなされ、web上に公開されます。講座は2014年から行われており、2016年4月現在で講座修了者は47人を数えます。 

2016年度の講座は、6月下旬から7月中旬にかけての全5回で開催。講師には現役の新聞記者3名を迎える予定です。優秀作品についてはweb掲載に加え、河北新報夕刊紙面への掲載チャンスがあるそう。

では、実際に市民ライターはどんな活動をしているのでしょうか。また、地域の最前線で情報を発信している人はどのような思いで活動しているのでしょうか。

IMG_0721

3月5日にイベント「地域メディア公開編集会議」が仙台市市民活動サポートセンターで開催されました。

「人と人、人と街をつなぎ、ローカルから新たな出会いを生み出す」をコンセプトに、ゲストによるトークや参加者を交えたディスカッションを実施。

「こんな地元出てやる」と思っていた

最初に登壇したのは、日本初のローカルジャーナリストとして島根を拠点に活動する田中輝美さんです。

IMG_0688

島根県浜田市出身の田中さんは大阪の大学を卒業後、島根の地元紙である山陰中央新報社に就職し、15年間記者として勤務。2014年にローカルジャーナリストとして独立後は「未来を変えた島の学校」をはじめとする書籍出版、「Yahoo!個人」や「greenz.jp」など各種webメディアでの原稿執筆、市民ライター講座の講師や移住定住関係の講演など様々な活動を精力的に行っています。

今でこそ島根で積極的に活動している田中さんですが、以前は「早く地元を出たい」とばかり考えていたといいます。

田中さん:ローカルジャーナリストという肩書を名乗っていることもあり、よく周りの人からは「島根大好きなんですね」と言われます。そんなことはなくて、むしろ私は島根が嫌いでした。就職活動時の第一志望も全国紙。結果的に島根に戻ることになりますが、本心からの行動ではありませんでした。「ああ私って都落ちなんだな」大学を卒業して、大阪のアパートを引き払う時に味わった、みじめな感覚を今でもはっきりと覚えています。

入社後、全国紙就職への思いを捨てきれなかった田中さんは、転職を決意します。転職活動の末、田中さんは受験したほとんどの会社から内定をもらうことができました。しかしその時感じたのは、喜びではなく違和感だったと言います。

 田中さん:ふと「縁もゆかりもない地域で取材し、その土地の人と一から関係づくりをしていくことが楽しいのか?」と思ったんです。そのとき、真っ先に浮かんできたのは大好きな島根の人々の笑顔でした。考え抜いた末「地元で働いているからこそ自分がやりたい取材をし、記事を書いていきたい」という答えを出しました。

以前の私は「都会のほうが上で田舎は下」という物の見方をしていました。でもそれって、他人が用意したものさしに囚われていただけなんですよね。全国紙というブランドに憧れていただけだったんだな、と気づきました。「大好きな島根の人についての記事をこれからも書いていきたい」と気づいてからは、生き方自体が180度変わりました。

地域の情報が外に伝わっていないことが悔しかった

考え方が変わった田中さんは、島根で記者を続けることに。会社では、政治部に所属していたこともあり、いつかは日本政治の中枢である永田町で記者をすることを夢見るようになったそう。そして念願が叶い、2009年から3年間、東京支社での勤務を経験しました。その時から田中さんは「東京視点に偏った情報発信がなされていること」に問題意識を持つようになったといいます。

 田中さん:東京の人を取材をしていて感じたことがあります。それは、東京の人はが全くと言っていいほど地域へ興味を持っていないということ。一番の理由は、東京では地方の情報に触れる機会がほとんどないから。地域について知るための情報源がなく、地域に住む私たちから外の人に向けて魅力を伝えてこなかったことも理由として考えられます。

日本で出回っているニュースの多くが「東京からの視点」で述べられており、地方から中央、地方から地方への直接的な情報発信が行われてこなかった。地方の魅力が外へ伝わりづらい何よりの理由だと田中さんは言います。

 田中さん:全国区で出回っている数少ない地域の情報があったとしてもそれを取材したのは、東京から来たメディアの人です。彼らは、旅人として二泊三日で地域にやってきて、取材が終わればすぐに帰ってしまう。地域で非日常を味わって感動して帰っていくから、地域の極端な面が切り取られがちであるのは仕方のないことではあります。しかし、地域が頑張っている過程を間近で見てきている人だからこそわかる、地域のリアルを伝えなければならないとも思っています。

自らの問題意識へと向き合うため、2014年に山陰中央新報社を退社。ローカルジャーナリストとして活動をしていく中で育んできた地域に対する思い、これからの展望について田中さんは次のように話しました。

 田中さん:私は「島根が好き」というよりも「島根の人が好き」なんですね。ですから、仕事をしていく上では「どんな内容の仕事か」よりも「どんな人と仕事をするのか」を重視しています。今後も、地域の何よりの魅力である人について広く発信していきたいです。そして「島根なんて嫌いだ」と嘆いていたころの自分のような人に「地域でも面白い生き方ができるんだよ」と道を示していきたい。

あえて繋がりを制限する、ハイパーローカルの発想

地域の情報を外に発信することも大事ですが、地域内で密度の濃い情報を行き渡らせることもまた大切です。次に紹介する「あらっE!プロジェクト」はまさにその一例。仙台市の限られたエリアで活動をしています。

IMG_0736

プロジェクトの中心となる『あらっE!』は、仙台市若林区七郷・荒井エリアの魅力を伝えるミニコミ誌です。宮城の地元紙河北新報社が月に1回のペースで発行。新聞販売店の持つ流通網を借りることで、ターゲットである地元の人へ確実に渡るようになっています。

あらっE!プロジェクトの制作に関わるのは、市民ライターや学生記者と呼ばれる人々。紙面のアイディア出しから、取材相手へのアポ取り、荒井地区での取材や記事の執筆までの一連の作業を担います。プロジェクトを担当する畠山茂陽さんは地域の抱える課題について話します。

 畠山さん:七郷・荒井エリアは、都市開発が急速に進められており、今後約3000世帯が増加すると言われているんですよ。一方で、先祖代々から続く農家さんが多く住まう地域でもあるため、昔からいる人と新しく越してきた人の共存がこれからの課題として挙げられていますね。

地域の環境が急速に変化していく中、価値観や世代の垣根を超えたコミュニケーションのあり方を模索するための実験が、あらっE!プロジェクトなのです。

 畠山さん:取材を重ねていくうちに、自分の住んでいる場所を好きだと思う人が少ないということに気づきました。プロジェクトでは、七郷・荒井地域に住まう人が「ここに住んでいてよかった」と思えるような接着剤作りをしていくことが求められるのだと思います。

あらっE!では、紙媒体だけではなく、デジタルメディアやリアルイベントを織り交ぜながらプロジェクトを展開していくそうです。

市民ライターは自分自身が輝ける場所

三番目の登壇者は「情報ボランティア@仙台(以下情ボラ)」という学生団体で学生記者としての活動をしている東北学院大学4年(当時)の小林奈央さんです。取材や記事執筆を通じて得た経験について話してくれました。

IMG_0752

 

情ボラは2011年の設立以来、被災地の現状や、復興支援活動に取り組む人を取材し、その魅力をweb上で発信してきました。所属メンバーは、仙台圏を中心とした大学生25名(イベント開催時の人数)。

2015年7月からは、仙台市市民活動サポートセンターで月に1回発行している機関誌「ぱれっと」の表紙記事も担当。市民活動のプレイヤーにもスポットを当てるようになりました。

小林さん:地域で活動されている方のお話を聞くことで「私もあの人のように頑張ろう」と刺激をもらえます。また、私の書いた記事を見て、実際に市民活動を始めたという人も。まちの課題を自分ごととして捉え、チャレンジしようとしている人の背中を押せたと思うと嬉しくなりました。

「書くことが好き」「地域の魅力を伝えてみたい」そのような思いを抱く市民にとっての活躍の場は、どんどん広がりを見せています。

 地域における情報発信者になるための必要な視点とは

各登壇者のトーク終了後は、ローカルジャーナリスト田中輝美さんが再び登壇。河北新報社記者であり、仙台市市民活動サポートセンターが主催する市民ライター講座の講師を務めてきた大泉大介さんと、参加者を交え「地域メディア」に関する公開会議が開かれました。

IMG_0772

イベントで感じた、地域における情報の発信者になるために大切な視点を、読者のみなさんにも共有しようと思います。

1つ目は、地域内の情報発信者と地域間のハブとなる情報発信者、両方が求められてくるということ。

仙台市の場合、地域内で地域の魅力を発信する人は多いものの、その事実をより広い対象に広め、地域間をつなぐハブの存在が少ないのではないか、という課題があります。活動するプレイヤーと、活動をディレクションしていくプロデューサー、両方の存在が必要であるように、地域からの情報発信でも同じことが言えると思います。

2つ目は「どうすれば地域がより魅力的になるか」というプラスの発想を持つこと。

「島根は日本一過疎が進んでいる」と聞いた島根の人は「もうだめだ」と諦めませんでした。地域活性化の先進事例として有名な海士町をはじめ「まずは今からできること。どうすれば島根が魅力的に映るか」という発想で地域と向き合ったのです。マイナスをプラスにではなく、プラスをもっとプラスにしていくのが大事と田中さんは教えてくれました。

田中さんのアイデアを受け、参加者からは「仙台が好きという思いに溢れる人がたくさんいるから、情報発信が多いのではないか」という意見が出ました。

市民ライターの活動をしている参加者は「市民ライターをしていく上で原動力となっているのは、仙台というまちが大好きで、その魅力を他者に伝えていくのがたまらなく楽しいから」と言います。好きなものに対する好奇心が、街を盛り上げることに繋がっていきます。

一方で、地域の情報を発信することでどのような層の人々に元気になってもらいたいか、気づきを得てほしいか、について、書き手はしっかりと考えていく必要性があるのではないかとイベントを通じて感じました。情報発信の担い手だけが満足するような情報発信ではなく、発信する内容や切り口次第では、その情報は今まで地域に関心がなかった人を巻き込む起爆剤にもなりえます。

自分の地元の魅力って何でしょう?また、何のために地域の魅力を伝えるのでしょうか?地域からの情報発信の必要性が各地で広まる中「何のために地域の情報を発信するのか」について一歩立ち止まり考えてみると、みなさんにとって何かいいヒントが得られるかもしれません。一人の小さな一歩も、その輪が広がっていけばもっとまちは面白くなります。みなさんも、アクションをおこしてみませんか?

 

鈴木里緒

riosuzuki

1993年宮城県出身。現在は、仙台市に拠点を置きながら、山形の大学で学んでいます。大学では商店街の活性化をはじめとするまちづくりについて学んでいます。働き方や地域からの情報発信について関心があります。

コメント

コミュニティに参加する

ページトップ