マチノコト

2016.1.12

特効薬は”コミュニティ”ーー「まちなか空き家ラボ@仙台」で語られた空き家活用のヒント

総務省調べによると、2013年時点で日本全国に820万戸の空き家があると言われています。よりよい活用法を求められている一方で、オーナーの考えを無視した業者による空き家処理の在り方が問題になっているそう。

その一方で全国には、オーナーや地元住民との良い関係性を保ちながら、空き家を活用して地域づくりに取り組んでいる動きも多数あります。

今回紹介する、秋田県五城目町で築133年の古民家を活用した「シェアビレッジプロジェクト」の武田昌大(たけだ・まさひろ)さんもその一人。こちらは以前マチノコトでも記事で紹介させていただいたところ、大きな反響があったプロジェクトです。

宮城県仙台市で「まちなか空き家ラボ@仙台」が開催

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その武田さんをトークゲストに、11月20日に「まちなか空き家ラボ@仙台」が仙台市青葉区にあるリノベーションスタジオ「e-consept」で開催されました。このイベントは、空き家のよりよい活用策を見出していくことを目指しています。主催はアートやダンス、ワークショップなどを通じた学びと対話の場づくりを実践する「HaTiDORi」代表の工藤瑞穂さん。このマチノコトでもライターをしています。

今回のテーマは、「空き家を通じたオーナーと活用する人のハッピーな関係性」。

「空き家を好き勝手使うのではなく、持ち主の思いを汲み取ったうえで活用し、空き家を中心とした地域のコミュニティを作ったり、その地域のよさを発信していくにはどうしたらいいのか。」

ゲストの話を聞きつつ、参加者一人一人が考えていく場です。当日は40名以上の参加者が会場を埋め尽くし、和気あいあいとした雰囲気で進行していきました。

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空き家には空き家である理由がある

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まずは司法書士である時田悠記さんから、宮城県内の空き家の活用状況に関してのお話がありました。時田さんは、宮城県蔵王町を拠点に司法書士の仕事をしながら、少子高齢化や人口減少などに伴う空き家問題に対しての課題解決を見出していく活動をしています。

その一つとして、蔵王町にある倉庫をリノベーションしたモデルルーム「1173BASE」の運営があります。おしゃれなデザインのモデルルームは、時には映画館やカフェに大変身。何度も訪れたくなるような催しが開かれています。周辺に広がる蔵王の豊かな自然との触れ合いを通じて、1173BASEに来た人と新たな繋がりを築くことができます。

時田さん:全国的に急増していると言われている空き家の半分近くが、市街地とその周辺にある「まちなか空き家」です。

1960-70年代に働き手世代となったいわゆる団塊の世代が建てた住宅が多いため、建物の老朽化が進んでいます。高齢社会や都市への人口流出などの、空き家が空き家である明確な理由が必ずあると私は考えています。

一般的な「空き家対策」としては管理会社による管理が挙げられており、会社側の都合のみで空き家を扱われるということが少なくありません。

空き家の活用が全体の2割から3割にとどまる中、今後活用率を上げていくためには所有者が建物に対してどういった思いを抱き、どんな事情で建物を手放さなければならなかったのか理解した上で、空き家を取り巻く現状を見つめていくことが求められているんです。

空き家を活用したどうかではなく、「どのようなプロセスで空き家を使っていくかが今後の空き家対策では重要視されるだろう」と、時田さんは力を込めて言いました。

地方の生産者と都会の消費者をつなぐ

 

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続いては株式会社kedamaの代表を務める、武田昌大さんからのお話です。秋田県出身の武田さんは、47都道府県中で食料自給率が2位になるなど、コメ作りを中心に農業が盛んなのにもかかわらず、現在少子高齢化による農業の担い手不足に悩まされている秋田の状況をなんとかしようと、26歳の時に起業します。

最初に始めたのは、秋田の若手米農家の男性たちをトラクターに乗った男前集団「トラ男」と名付け、彼らの農業を支える事業でした。

「生産者だけでなく、お米を買う消費者の顔も見えるようにすることで繋がりを生んでいきたい」という思いから、農協を通さずに直接販売店や消費者に向けて彼らのつくった米を販売。定期的にお米を届けるだけでなく、SNSで農家と消費者の交流を図ったり、東京都内で秋田のお米を食べながら参加者が交流するイベントを開催し、農家と消費者が相互に支えあうコミュニテイづくりをしていきました。

トラ男のメンバーである秋田の若手米農家のみなさん

トラ男のメンバーである秋田の若手米農家のみなさん photo by トラ男~秋田の若手米農家たちの挑戦~Facebookページ

東京都内のイベントで秋田のお米をつかったきりたんぽを振舞う武田さん

東京都内のイベントで秋田のお米をつかったきりたんぽを振舞う武田さん photo byトラ男 ~秋田の若手米農家たちの挑戦~

ソーシャルメディアを最大限に活用した広報活動や画期的なアイディアが評価され、事業立ち上げからわずか半年で、「クローズアップ現代」など多くのメディアがトラ男に殺到。その結果、地域の農業を盛り上げるフロントランナーとしての立場を確立し、全国にとどまらず海外にも販路を伸ばします。そんな中、トラ男としての活動を通じて気づいたことがあったと武田さんは言います。

武田さん:外から地域に人を呼び込むには、3つのステップがあります。まずは地域にどんな資源や魅力があるかを「知ってもらう」。次に「来てもらう」ことで地域の生活を体験してもらう。そして最終的には、その地に「住んでもらう」こと。
トラ男のイベントを通じて秋田に「来てもらう」ことはできても、移住にはなかなか結び付かないんですよね。100年後に人口ゼロになると言われる秋田が抱える人口減少や少子高齢化の問題を念頭に置くと、地元だけではなく、都市住民をも巻き込んだコミュニティづくりをしていくことが重要なのです。

古民家を村に見立ててネットワークを

地域への移住に対する問題意識から生まれたのが、全国の古民家を村に見立ててネットワーキングしていく「シェアビレッジプロジェクト」。その第一歩が、秋田・五城目町にある築133年の古民家から、地域の再生を目指す「シェアビレッジ町村」の開業でした。

 

武田さん:古民家との出会いは、まさに運命でした。茅葺きの屋根に、まず目を奪われました。広い畳の部屋にはいろりがあり、土間やかまどがある。

2014年の春に初めて古民家を訪れたときは、「なんて素敵な家なんだろう」と思いました。520年続く朝市をはじめ、農業とものづくりが盛んな町というどこか懐かしさの漂う五城目の文化が、さらに古民家の風情を引きたたせていました。まさに一目ぼれでした。

しかし、この古民家が近いうちに取り壊されるということをオーナーさんから聞きました。133年もの間、地元住民みんなから愛されていた古民家であったにもかかわらず持ち主が取り壊すことにしたのは、住居維持費を工面するのが難しかったからだそうです。

持ち主の本意ではない理由で取り壊されるのは、納得がいかなかった。持ち主の思いを最大限に汲んだ上で、古民家をもっといい形で活用していけないものか、と考えました。その答えが、シェアビレッジというアイディアです。

シェアビレッジ町村開業に向け、2014年の夏ごろ動き始めた武田さんでしたが、道のりは決して順調ではありませんでした。

武田さん:築130年以上の古民家ということもあり、家の造りが現代のライフスタイルとはかけ離れていました。大規模な改修が必要となり、改修に伴う「法律の壁」もあります。それらの問題をクリアにした上で、準備を進める必要がありました。

僕は当時東京に住んでいたので、秋田にいる現地メンバーにお願いして役所や法律の専門家のもとへ足を運んでもらいましたね。シェアビレッジの構想をしたときから開業までは、丸1年かかったんです。

人が集まるところにコミュニティが生まれる

武田さんはクラウドファンディングで得た資金を元手に準備を進め、2015年5月にオープン。1年目にして、グッドデザイン賞でTOP100に入賞します。これほどまでにシェアビレッジが大きな反響を呼んだ理由は、シェアビレッジならではのユニークな制度でした。

武田さん:「年貢」と呼ばれる年会費3000円を支払うことで、「村民」になることができます。村民になると、いつでもシェアビレッジの宿泊施設を利用したり、体験イベントに参加したりすることが可能になります。

例えば、全国各地の主要都市で開かれる村民合同飲み会「寄合」は、忙しくて五城目にはなかなか足を運べないという方にも、嬉しいイベントとなっています。各都市と五城目をオンラインでつなぐことで、近くに住む村民同士だけでなく居住地に居ながらして、田舎を感じることができると評判を呼んでいますね。寄合の会場では、きりたんぽ鍋をはじめとした秋田の郷土料理が毎回振る舞われ、こちらも大好評です。

2015年8月にはシェアビレッジで夏フェス「一揆」が開かれ、人口150人の集落に300人の来場者が詰めかけ、大盛況でした。

五城目の魅力を前面に打ち出した多彩なイベントや、村民であることを共通項に集うコミュニティづくりなどが功を奏します。住居の維持に関しても、コミュニティの発想を取り入れました。

武田さん:古民家のメンテナンスにはかなりの費用がかかるという課題があります。でも全国各地から村民が多く集まり、少しずつお金を出し合って1つの家を支える仕組みを作ることで、息の長い経営ができる上に、村民という一種のコミュニティまで作り出すことができました。

既存の村があるところに人が集まるのではなく、人が集まるところに村=コミュニティができる。そんな逆転の発想から、シェアビレッジの輪は広がりを見せています。

放置された空き店舗をたくさんの人でにぎわう場所に

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トラ男やシェアビレッジを立ち上げ、地域活性化のロールモデルとして確実に実績を積み上げている武田さん。これも、「いつか地元を元気のある街にしたい」という思いからきています。今後は現在の事業に加えて、地元・北秋田にある空き物件の活用を通じ人々が交流できる場を作っていきたいと武田さんは言います。

武田さん:僕は昔、秋田が嫌いでした。秋田には、これといった魅力がないと思っていたからです。しかし、高齢化に加え若者が都市部に流れていくことで、街がどんどんさびれていく現状を見ていて、僕は寂しい気持ちになりました。

建物だって同じことがいえて、直せばまだまだ使えるのに、放置されたままの建物が至る所にあります。それらを有効活用して、秋田の人々が集まれる場をつくっていきたい。「ここに行けば、必ずおもしろいことがある」、そう思ってもらえるような場作りをこれからもしていきます。

価値観やビジョンが似ている人を巻き込んでいく

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ゲストトーク終了後は、参加者からいくつか質問がありました。

―シェアビレッジでコミュニティ作りをしていくにあたって工夫したことは?

特別なことはしていませんが、イベントに関してSNSで告知する際には「開催場所」でのターゲティングをしていました。

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―事業を立ち上げる際のメンバー集めはどのような方法でしていますか?

出向いた先々で仲良くなった人の中で、「これは」と思う数人に声をかけます。その人たちの価値観や将来に向けてのビジョンを聞き、彼らの考えと自分の思い描いていたものとで似通っていた部分があれば、「ぜひ一緒にやりませんか」と誘う。ここで大事なのが、ある程度構想を固めてから打ち明けること。まだ決まっていない段階で誘っても相手に思いが伝わらない可能性があるし、アイデアをマネされてしまうリスクもあります。

既に会社を経営していたり、コミュニティを立ち上げている人、これからコミュニティをつくってみようと考えている人など一人ひとりの背景は様々ですが、これからの地域を自分たちの手で作り上げようという思いは共通していたように思います。

地域を担うプレイヤー達が集い考えを深める場

約1時間半のイベント本編終了後は、交流会の時間!仙台の様々なイベントでケータリングを行う「えみっくす食堂」の鈴木絵未さん親子により、宮城県の食材がふんだんに使われた料理が振る舞われました。

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宮城県蔵王産の里芋を使ったコロッケをはじめ、地域で生産された食材がふんだんに使われています。トラ男米の玄米で握ったおにぎりは、玄米ならではの歯ごたえにほんのりとした甘みを含んだ味わい。香ばしい香りでさらなる食欲を誘います。おいしい料理に囲まれ、楽しいおしゃべりはますます弾みます。

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宮城を中心とした地域に根差した活動を実践している人々が集い、意見交換することで新たなアイデアが生まれます。新しい動きに結び付けるきっかけを得た人の姿も。クロージングの時間を過ぎても、参加者の多くが帰ることなく笑顔でやり取りを交わしているなど熱気を保ったまま、イベントは終了を迎えました。

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空き家を通して、地域活性化やコミュニティづくりを自分たちの手でやっていきたい!という人は少なくないと思います。しかし、自分たちの気持ちが先行するあまり、持ち主の思いにまで考えが行き届かないという方もいるのではないでしょうか。

これから空き家を使う人だけではなく、持ち主の家に対する思いを最大限に生かしてはじめて、家の魅力が発揮されます。だからこそ、そこに人が集まり、暖かなつながりをつくっていくことができるのだと思います。

今回私が特に驚いたのが、大学生をはじめとする20代前半の参加者が多かったということ。これから地域を担っていくであろう人達にとって、地域の空き家が抱える課題を示していくことは、これからの具体的なアクションを考える機会になるのではないかと思います。現在大学3年生で、これから卒業後の道を考えていこうとしている私にとってもまた、将来について考えるきっかけとなりました。

「まちなか空き家ラボ」は今後も継続的に開催されていくそう。地域を盛り上げていくために行動しようとしている人たちが集まる熱量の高いこの場から、これからどんなプロジェクトやコラボレーションが生まれていくのでしょうか。今後の開催も楽しみです。

(写真/板橋充)

鈴木里緒

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1993年宮城県出身。現在は、仙台市に拠点を置きながら、山形の大学で学んでいます。大学では商店街の活性化をはじめとするまちづくりについて学んでいます。働き方や地域からの情報発信について関心があります。

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