マチノコト

2015.9.7

「みんなで笑えば、なんとかなると思うんです」ーー地域に多世代共創コミュニティを生み出す「笑学校」校長の藤川かん奈さん

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今、みなさんの暮らしている場所では”ご近所付き合い”はありますか?

私は青森県の田舎町の出身で、子どもの頃は町内会での廃品回収やお祭りなど、ご近所で子どもから大人まで協力しあって取り組む行事がたくさんありました。日常的にも、何かいたずらをすれば自分の親以外の大人にでも怒られたし、もらいものが余った時はご近所におすそわけしに行ったり、ご近所との付き合いがありました。

でも今暮らしている東京ではマンションに住んでいて、隣に住んでいる人の顔も名前も知らず、廊下ですれ違った時に挨拶しかしたことがないという状況。都会ではご近所付き合いは少なく、仕事や趣味でつながった友人など同世代のコミュニティが中心で、子どもたちやおじいちゃんおばあちゃんなど多世代と日常的に触れ合う機会もほとんどありません。

高齢化が進み一人暮らしの高齢者も多く、核家族でひとりの放課後を過ごす子供も増えていくなかで、もう一度ご近所付き合いを取りもどし、多世代が交流し支え合うコミュニティをつくろうという動きも始まっています。

京都に、幅広い世代が集い学び合うことでその地域に住む人々のつながりを生んでいる「笑学校」という場があります。

教えたい知恵がある人は誰でも先生!多世代が学びあう笑学校

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笑学校は、『今までにない学びのカタチを。忘れかけていた大切なモノを今ここに。』をコンセプトに、2013年から京都の京都市左京区を中心として様々な場所で定期的に開催されています。

子どもたちに、大学生、お父さんお母さん、おじいちゃんおばあちゃんまで。幅広い世代が集まるこの場は、笑学校という名前だけに、開かれるイベントは授業形式。

お寺に公園、農家さんの畑など地域のあらゆる場所は、ひとたびみんなが集まれば笑学校の教室となります。

「起立!」
「礼!」

生演奏のウクレレに合わせて、笑学校の校歌をみんなで合唱することから授業が始まります。ここは年齢や立場に限らずそれぞれ持っている魅力的な”知恵”を教え合う学校なので、みんなに教えたい知恵があるひとは誰でも先生!

おじいちゃんおばあちゃんに茶道や日本舞踊、バイオリンを習ったり、”おばあちゃんの味”と題してみんなで料理を教わって食卓を囲んだり。

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戦争を経験したおじいちゃんから戦時中のお話を聞いたり、おばあちゃんから戦時中の食卓を再現してもらうこともあります。

落語に相撲、紙ひこうき、書き初め。時には若者が先生となって、和紙やポーチをつくる体験をしたり、楽器をつくってみんなで演奏します。

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今年の夏は地域の盆踊りが復活するということで、笑学校で盆踊りの教室を開催しみんなで練習を続け、そのお祭りを盛り上げていくためにみんなで盆踊りに参加したんだとか。

いろんな人が自分の特技を教え合い、みんなで楽しむ笑学校には、いつも世代を超えたたくさんの笑顔が溢れます。この素敵な場を生み出すきっかけは、日本の外にありました。

途上国で出会った人とのつながりは日本がなくしかけているものだった

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笑学校を中心となって運営するのは、笑学校校長の藤川かん奈さん。京都出身で、今も家族と一緒に暮らすかん奈さんは、昨年大学を卒業したばかりの23歳。

かん奈さんはなぜこの笑学校を始めようと思ったのでしょうか。

大学1、2年生の時にバックパッカーで海外を回って、水道とか電気がない村に1、2ヶ月滞在してたんです。当時はずっと貧困問題に興味があって、「なんでこのひとたちこんなに貧困なんやろう」って原因を探ってたけど、そこらじゅうに原因があることがわかって、無力感しか感じなかったんです。

でも逆に「なんでこのひとたちは生きられるんやろう」って思った時に一番ピンときたのがコミュニティの強さやって…。例えば、村とか町である一人のひとにいいこと、悪いことが起きると一瞬で村のひとがそのことを知っている。良いことは分けあって、悪いことは負担しあってるんやなって。

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途上国で出会った村の人同士のつながりの強さを感じた反面、今自分がいる日本の状況を考えたときに気づいたことがありました。

自分を振り返ると、20年間同じところに住んでるけど右隣の長谷川さんの名前しか知らない。左の家やお向かいさんの名前も顔も知らず。「これはやばい、これは日本で何かおかしいことが起きてる」って感じて。

気づけば自分の街とか身近なひとを大切にできてなくって、そんな自分が世界の顔も名前も知らない子供たちのためにとか言ってるのはおかしいなと思ったんです。自分なりのアプローチができる、海外よりまずは日本だ!って思って帰ってきて、それから日本のいろんな社会課題に対してアプローチしてる団体に入ったり、京都のまちづくりにも関わっていきました。

おじいちゃん、おばあちゃんの持つたくさんの知恵を伝えていきたい

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いざという時も助け合って困難を乗り越えていけるような、身近な人々とのコミュニティをつくるために行動し始めたかん奈さんは、自分の感じた課題意識に向けて「教育」と「学校」を軸にアクションを起こそうと考えます。

最初は子供向け活動しようと考えてたんです。私、小学生のときに夏休みに親も共働きでいないしすごい寂しい思いをしていて、7月くらいに夏休みが来ると思うと泣くみたいな日々を送っていました。

今は、働く女性が増える一方で、自分と同じような体験をする子供が絶対増えている。その子達が寂しくならないように、居場所をつくりたいと思ったんです。

子どものころのことを思い返してみると、ご両親が家にいないかん奈さんの面倒を見てくれたのは、今も一緒に暮らすおじいちゃんとおばあちゃんでした。

学校から帰ったらおばあちゃんの部屋で宿題をして、公園で遊ぶ。おばあちゃんはスパルタなんですけど、保育園のときからずっと茶道とか編み物を習ってました。

おばあちゃんおじいちゃんは、持ってる知恵がすごいけどずっと家にいて、デイサービスとかも行きたがらないんです。それがほんまにもったいないみたいな意識もあって、いろいろ彼らに与えてもらったものは大きいから、今度は返したいなと思いました。

少しずつ見えてきた、かん奈さんのやりたいこと。そんなかん奈さんの気づきをさらに後押ししたのは、あるアフリカ人のひとの一言でした。

”僕の村ではおじいちゃんおばあちゃんが一人亡くなるたびに、村の図書館がひとつ消えたって言うんだよ”って教えてくれて。それを聞いた瞬間に自分のおじいちゃんおばあちゃんの知恵や経験を、自分らしいかたちで伝えていきたいなって思ったんです。

誰でも共通体験する”学校”を多世代のつながる場に

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「子供からおじいちゃんおばあちゃんまで、みんないるのがおもろい!世代を超えた学びの場をつくろう!」と決意したかん奈さん。いろいろ考えて、みんなが共通体験している”学校”がキーワードだったら、どの世代も集まりやすいのではないかと思いついたそうです。そして、仲間になってほしい大学生の友人たち一人一人に呼びかけ、2013年8月に「笑学校」を立ち上げます。

まず大学生や社会人を集めた「おじいちゃんおばあちゃんに教わりたいこと」をテーマに話し合うワークショップを開催。それをふまえて、かん奈さんのおじいちゃんおばあちゃんのコミュニティから20人くらいのお年寄りに集まってもらって、「習いたいことと教えたいこと」をヒアリングしたそうです。

ひとりよがりの思いで始めるのではなく、事前にたくさんの人の意見を聞き、それをもとに時間割が完成!

こうして小学校の夏休みの初日、「笑学校」は学校と名のとおり、始業式から始まりました。

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「キーンコーンカーンコーン」

学校で聞くのと同じチャイムが、ピアノの音で鳴ると授業開始です。

京都市内にある小屋を改修したレンタルスペース「ナミイタアレ」で、授業は夏休み期間中毎日行われ、子供たち、大学生、おじいちゃんおばあちゃんまで幅広い世代が集まりました。

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みんなでご飯をつくって食べたり、書道にマジックショー、絵本づくりに地元の音楽バンドによる演奏。ナミイタアレの壁には、地域の人も巻き込みながら1日かけて描いた壁画も描いたそうです。

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最終日の終業式では毎日のように通った子どもたちに、かん奈校長から卒業証書の授与!

アルバムをもらって泣いてしまった子供たちを見て、かん奈さんも終わりの挨拶で何を言っているかわからないほど泣いてしまったそうです。

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こうしていろんな世代が混じって、互いにできることを教え学びあいながら楽しい時間を過ごす笑学校は徐々に人気を集めるようになり、お寺や地域の催しものなどの際に定期的に開催されるようになりました。

一言で言うと、場の雰囲気は「ゆるい、熱い、あたたかい」。やっぱり笑顔が溢れてることがすごくいいなと思うし、笑学校に来るとみんな良心が出るなって見てて思うんです。

あらゆるものを受容する心が漂っていて、これはすごくいい雰囲気だからなくしたくないし、あり続けたい空間だなって思います。

若い世代は今、メールやSNSを使えばイベントに集客することは簡単にできます。ですが、子どもやお年寄りに参加してほしいと思うと、なかなか難しいのではないでしょうか。

かん奈さんは「笑学校」の集客では、こんな工夫をしているそうです。

児童館とか公園で巨大シャボン玉をつくる実験なんかをして、子どもや親が集まってきたとき「こういうおもしろいことしてるんですけど」って声掛けてます。けっこう公園にいるおじいちゃんおばあちゃんも声かけると来てくれるんですよ。

あと地道な近所周りですよね、「ピンポン、こんにちはー」みたいな!町内にそれぞれ組があるので、「町内会で1組の藤川です」って言って話聞いてもらってます。

きちんと顔を会わせて、ひとりひとりに話を聞いてもらう。このようなかん奈さんのコツコツ続けている地道な努力が、信頼を生みたくさんの人が「行きたい」と思うような場をつくっているのだと思います。

困った時にご近所でお願いし合えるコミュニティへ

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笑学校を続けているうちに、一緒に運営している大学生のメンバーや参加してくれているお年寄りにもどんどん変化が見られてきたそうです。

若いメンバーで、自分のおじいちゃんおばあちゃんと何を話したらいいかわからなかった子がお年寄りと話しやすくなったり、いろんな世代と関わることで家族を大事にしたいと思ったと言ってくれました。メンバーも家族を連れてきてたりしています。

おじいちゃんおばあちゃんも、80年間近く生きてきたけど“初めて”っていう授業を毎回してるから、指を動かしたり体を動かすことで、「なんかようわからんけど楽しいわ」って言ってくれて。みんな「子供を見てると元気が出るね」「声聞くだけで元気になるわ」って喜んでくれています。

かん奈さんがこの笑学校を続けていて一番嬉しい事は、同世代のメンバーとつくっているということもありますが、自分のおばあちゃんとやっているという感覚があることです。

おばあちゃんが若い世代と触れ合って、教えるだけじゃなくて学べるみたいなところで、そのときの笑顔を見てるだけですごく幸せです。近所のおばあちゃんたちに笑学校が褒められると、うちのおばあちゃんには”この子がすごいんやない!私がいつもこの子の尻ぬぐいしとるんや!”って言われてるんですけど(笑)

おじいちゃんは認知症にはなってないけど前頭葉がだめになってきてて、でも笑学校を通してたくさんおじいちゃんと会話してたら、認知症を測るテストの結果が半年くらいで50点伸びたみたいなんです。満点が何点かわかんないですけどね(笑)。日に日に元気になってきてて、それも見てると嬉しくって。

今2人が亡くなったら悲しいけど、後悔はないなっていう気がしてます。

笑学校を2年間開催しつづけたかん奈さんは、自分の暮らす身近なコミュニティに、自分の身を持って変化していると感じることがあるそう。

コミュニティがあることで助け合いができるから、この前も大きいバケツが必要になったけどなかったので、4軒隣の古い美容室に行って、仲良くなったから貸してくださいって頼んで。こういうお願いがめっちゃ言いやすくなりました。

困った時に気軽にお願いができる関係をご近所の人たちと築けているということは、いざという時に助け合えるコミュニティにもつながっていくはずです。

とはいえ、まだまだチャレンジしたいことはたくさんあるかん奈さん。

自分の育った小学校区、まずはそこを充実させたい。2015年は私が通っていた北白川校区内で私を知らない人をなくすっていう目標があって。町内会長さんもほぼ全員回ったんですよ。

今は公園行くと顔なじみの子どもたちがいて「かんな校長」って呼ばれるので、下手なことできないんですよね、2人乗りとか(笑)コミュニティを変える感覚はなくて、つくるっていう感覚。自分が理想とする状態をつくっていきたいです。

みんなで笑っておけば、きっとなんとかなる

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ただの学校ではなく、「笑」という一文字が加えられて笑学校という名前になったのは、かん奈さんの人の笑顔を大切にしたいという思いから。

実は笑学校って名前は飲み会の時に3分で決まったんですよ。すごい安易な決め方をしたけど、昔からスマイルとか笑顔が大事やなって思ってて。多分途上国で見たみんなの笑顔からきてると思うけど、笑っとけばなんとかなるみたいな気持ちがあるんです。

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そう言って笑うかん奈さんの「身近な人を大切にしたい」という想いは、いつのまにか共感を得て大きな輪となり、たくさんのひとの笑顔とつながりをつくっています。

自分のおじいちゃんおばあちゃんが来れる場所で、自分がママになっても子供を通わせたいし、おばあちゃんになったら孫も通わせたいって思う場を作り続けたいです。
一回で終わってしまうイベントではなく、地域に根差したみんながつながる場づくりを目指していきたいと思います。

本当に支え合える地域のコミュニティを生み出していくことが目標のかん奈さんは、今後は学びあいの場だけではなく、このコミュニティで子育てや介護を共有できるような具体的な取り組みも行っていくそうです。

「多世代交流」ではなく「多世代共創」。その積み重ねがきっと、暖かな人のつながりをつくっていくはず。みんなが身近な人を大切にし合う笑顔溢れる未来を目指して、かん奈さんはこれからも活動し続けます。

自分の地域でもぜひ笑学校のような場をつくりたい方は、ぜひこちらをチェックしてみてくださいね。

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工藤瑞穂。 「soar」プロジェクト代表・編集長、「HaTiDORi」代表、ダンサー、元日本赤十字社職員。1984年青森県生まれ。宮城教育大学卒、青山学院大学ワークショップデザイナー育成プログラム修了。NPO法人ミラツク研究員、Webメディア「マチノコト」ライター。

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