マチノコト

2016.10.10

8000人の暮らしが共創する東川町の“ふつう” ーー 『東川スタイル』編集者・末澤寧史さんとの対話から

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マチノコトでは、「マチと関わりたい」「マチに対して何かアクションを起こしていきたい」と考える人たちで集まり、話しあう場としてマチノコトオープンダイアローグを毎月開催しています。

これまでには、「holiday」の谷さん、「HAGISO」の宮崎晃吉さん、ご近所SNS「マチマチ」を運営する六人部生馬さんらが登壇しています。

vol.6となる今回は、書籍『東川スタイルー人口8000人のまちが共創する未来の価値基準』(玉村雅敏・小島敏明編著、産学社:以下『東川スタイル』)を編集された、書籍編集者の末澤寧史さんをゲストにお呼びし、「小商い」をテーマに東川町の取り組みについてお話いただきました。

「写真の町」「脱公務員発想」が掲げられた、人口8000人のまち

このまちの“ふつう”は、ふつうではない。(『東川スタイル』より引用)

東川町にある暮らしとまちづくりから、これからの「まち・ひと・しごと」のヒントを探る『東川スタイル』。東川町では、無理のないライフスタイル、ワークスタイルを貫きながらも、質にこだわった丁寧な暮らしを大切にしています。

その考え方に共感する人の移住・定住も増えている場所ですが、どのような地域なのでしょうか。

北海道のほぼ中央に位置する東川町は、人口8000人ほどの町。日本最大の自然公園「大雪山国立公園」の麓に広がる豊かな自然と田園風景に恵まれた地域にあります。

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末澤寧史さん。幾度となく足を運び、まちの人と関係性を築いてきた著者の2人から書籍の企画化を相談され、現地デザイナーなどを巻き込み『東川スタイル』のプロジェクトを進めた。北海道札幌市出身という地縁もモチベーションになったそう。

末澤さん「東川は、ずっと水道がない町なんです。昔は、それが貧しさの象徴のひとつで、町を出たいという人も多かったとか。ところが、今では地下水は豊かさの象徴です。大雪山の伏流水で暮らせるまちとして、新しい人を呼び込む地域の魅力になっています

東川町は30年前から「写真の町」を掲げたり、「脱公務員発想」のもと営業する公務員がおり、まちが運営する国内唯一の公立日本語学校があったりと、ユニークなまちづくりが行われています。

Style, Standard,  Seikatsu ー 東川町を知るための「3つのS」

東川町というまちの輪郭を捉えるために、『東川スタイル』では、「3つのS」を意識したと末澤さんは言います。

末澤さん「一つ目のSは、書名にもある『Style(スタイル)』です。東川の人たちがよく口にするのが、 “東川らしさ”という言葉でした。それを突き詰めることが自然に行われているんですよね。その”らしさ”がその地域らしい価値を生み、スタイルをかたちづくるのではないかと。

そして、その“らしさ”を生み出す考え方や行動の価値判断の基準、つまりモノサシが二つ目のS。『Standard(スタンダード)』です。東川の人が、どんな価値観で『日々を営んでいるのか』。その考え方がユニークなので、著者との議論のなかで、そこを伝えていこうということになりました」

そして、最後のSとなるのが、「Seikatsu (生活)」とのこと。東川町では、「暮らしを豊かにしていこう」という考えをもとに、経済活動が生まれています。単純に経済が潤えばいいわけじゃないという生活文化価値を、まちの人が共有できているのが“東川らしさ”なのでしょう。

暮らしのなかの「自分ごと」が「みんなごと」「世の中ごと」につながる

『東川スタイル』では40の東川スタンダードが挙げられているのですが、その中からいつくかを紹介します。

例えば、「3つの“ない”はない」という方針を行政は掲げています。「予算がない・前例がない・他ではやってない」を口にしない政策を進めています。東川町では、「ふるさと納税は投資の一つ」と位置づけているそうですが、そのスタンダードに基づいた取り組みと言えます。

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『東川スタイル』ウェブサイトより

町内には職場に保育スペースをつくり、仕事と子育てを両立させたお店も多いのが特徴。そうした個々の営みからは「『Life(くらし)』のなかの『Work(しごと)』が幸せをつくる」というスタンダードも見え、まちにはさまざまな価値観があることに気づけます。

末澤さん「多様な価値観があるなかにも、共通した特徴があります。それは、個人が『自分ごと』としてやっている活動が、その枠を超えてみんなごと・世の中ごとにつながっていること。東川町では、個と地域が共通の価値を大切にし、自然につくりだす好循環が生まれているんです」

Private(自分ごと)を、Social(みんなごと)、Public(世の中ごと)につなげていく。そういった動きが、当たり前に起こっているのが東川町であり、そうした取り組みや考え方に対する共感がさらなる移住者を呼び込んでいるそうです。

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『東川スタイル』ウェブサイトより

交流人口を多面的に増やす“Local to Local”という考え

特筆すべきは、東川町は「人口10000人」を目指していること。

基本的には人口8000人をキャパシティにし、外部から関わる特別町民(東川町では、ふるさと納税を町への投資ととらえ、投資してくれた人を特別町民と呼ぶ)や、日本語学校に集まる世界各国からの留学生などの2000人も含めて、その数字を設定しているのです。日本各地の都会や田舎も問わない、地域と地域をつなげる取り組みとも言えます。

「都会と田舎をつなげる」だけでなく、近隣の地域も含めた広い意味での”Local to Local”の考え方は大切です。東川町では、その実践をじっくりと時間をかけながら進めてきたことがわかります。

ライフスタイルに沿って、小商いをはじめる

末澤さんのトークが終えると、参加者同士でのディスカッションが行われ、さまざまな立場・視点で東川町やまちづくり、小商いの話が広がっていました。

全体の共有時間では「これまでに移住摩擦はあったのか」「東川町の地域プレーヤーをどうやって探したのか」「成功事例とは別に、うまくいかなかった事例はあったか」など、鋭い質問が末澤さんに飛んでいきます。

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そのやり取りのなか、今回のテーマ「小商い」に対するヒントについて東川のまちとひとの動きを見聞きしてきた末澤さんは、次のように答えてくれました。

末澤さん「お店の独自性が、リピーターや遠方からのお客さんを呼ぶ要因になっているという印象はあります。『やりたいことはもちろん、地域にないもの』という視点を、お店をはじめるにあたってみなさん持っているかもしれません。最近は、たい焼き屋ができたりしてます。

それに、自分たちのライフスタイルをまずは大切にしている人が多いですね。他の収入源があってお店をやったり、営業時間が短かったりと、お店も無理なくスタートさせ、続けようとする人の話をよく聞きます。

東川町では、起業するときに助成金がついたりもして、“東川らしい”人に対しては全面的に応援してくれる町だと感じますね」

まちで暮らすなかで見えてくる、まちにあるとより豊かになりそうなもの。そうした生活者目線を生かしながらも自分たちのペースで小商いをつくり、そのアシストを行政も進めていく。まち全体で新たなモノやコトが生まれやすい環境をつくっているようです。

自然に育まれる「シビックプライド」と「シビックエコノミー」のかたち

「Style」「Standard」「Seikatsu」というキーワードからみえてくる東川町の人びとの営み。それぞれが、自分たちの生活をよりよくするためのスタンダードを持ち、行政もそのサポートをすることでまち全体のスタイルを共創しています。

まちに対する愛着や誇りとしての「シビックプライド」や、貨幣だけにとどまらず地域の中で小さな循環を生み出す「シビックエコノミー」が自然発生的につくられているのが東川町の魅力であり、一つの地域モデルとして注目される理由でもあります。

そんな学びを得られる、土曜日の朝となりました。

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マチノコトオープンダイアローグは、テーマを変えながら毎月開催しております。イベントの情報は「Meetup」上のオンラインコミュニティでもお知らせしています。よろしければこちらにもご参加ください。

大見謝将伍

大見謝 将伍

プランナー。 1988年生まれ。伊平屋島(沖縄)出身。東京-沖縄の2拠点で、カクテル - 場 − メディアづくりを軸とした、つたえる-つなぐ-まぜるための活動を「coqktail」でやってます。 「おきなわ移住計画」代表 -「水上家」管理人 - 「京都移住計画」広報、「焦点街」編集長など。自由研究テーマは、移住 - 民間伝承 - はたらき方 - 商店街です。

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