2013.9.1
防災情報マガジン「Standby」から、コミュニティデザインマガジン「マチノコト」へと、リニューアルしました。
この1年間、Standbyを運営してきた発行人の横尾俊成より、これまでの活動を振り返りつつ、マチノコトへリニューアルした経緯、そして、法人化としてのスタンバイの今後について話を伺いました。
私自身が、国内外50以上のチームをもとに、街のゴミ拾いなどのまちづくりをサポートするNPO法人グリーンバードの代表を務めさせていただいてます。そうした中、2011年3月11日に起きた東日本大震災の際に、仙台のグリーンバードチームが被災してしまったために、彼らのために物資提供や募金、さらには畑を元に戻す活動などを通して現地の支援を行ってきました。そうした活動を通じて、改めて東北の方々は私たちを温かく迎え入れてくれたのがとても記憶に残っています。
震災の混乱が過ぎてからは、避難所でもそうでないところでも、老若男女それぞれが手を取り合って日々を過ごしていましたが、ふと自分たちの身の回りを振り返ってみると、都会に住む私たちは彼らのような助け合いのコミュニティがどこまであるのか、震災などのいざという時に、みんなで手を携えて協力し合える関係が築けているのかを考えました。
例えば、港区では町会や自治会の加入率は現在では50%を切っています。また、地域の方々が行っている防災訓練も全体の約3%程度の人たちしか参加しておらず、防災に対する対策ができているとは言えない状況です。一方、高層住宅居住者の割合は67%を越え、一人暮らし高齢者の割合は40%以上と全国平均に比べて突出した地域でもあります。また、中小企業のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)対策(企業防災の核の事を指す)や大量に発生する帰宅困難者への対策、その他行政が進める各種の対策は、まだまだ現状では完璧とは言えない状況です。
また、これは被災地にも共通することですが、1)外部からの支援は短期間であり、かつ単発的であること 2)防災から復興にかけての様々なフェーズで外部と内部、行政と民間、民間同士、さらには行政同士など、様々な組織の壁を越えての連携が行なわれず、動きが統制できていないこと 3)NPOと民間企業、行政、自治会連携による防災会議、および街全体での防災訓練の実施などが必要性が、一部は行なわれていますが実践的ではなく、災害への備えは全般的に不足している状態と言えます。
こうした状況において、政府行政が担うべき公助、自分自身の力で対処する自助、そして地域コミュニティで支えあう共助のすべてが、現状では不安定な状態であるとも言えます。こうした現状を改善するためには、政府行政が担う公助にすべてを任せるのではなく、私たち自身による自助や共助の部分を作り上げるための意識作りと態勢を整えるべきではないかと考えました。
そこで、東日本大震災の支援の支援をしていた学生を編集長として、2012年の防災の日である9月1日に、全国各地の防災に関する情報情報を収集し発信するウェブマガジンとしてスタートしました。全国各地の良い取り組みを紹介することで、防災意識に目を向けた人たちを作り、すぐに動き出せる状況を作っていけたらと考えました。メディア運営に際しては、RCF復興支援チームの藤沢烈氏にも、様々なアドバイスをいただくことができました。
これまで、今年も行なわれたYahoo!やTwitter、森ビルなどが協力しソーシャルメディアなどを活用した「ソーシャル防災訓練」、シブヤ大学が屋外で一泊二日で実施した「SHIBUYA CAMP」などの取材レポートや、慶應義塾大学の藤沢キャンパスで行われた「防災とデザイン」の取り組みの取材や料理研究家・五十嵐豪氏に防災レシピを開発していただき、東急ハンズの場所をお借りしての料理教室やレクチャーの開催などは、大変多くの方々に好評いただきました。ソーシャルデザインを中心とした取り組みを紹介するgreenz.jpにはメディアパートナーとして記事を掲載させていただいた他、都市の地縁コミュニティを作るCommunity Crossing Japanとは協働の防災ワークショップを開催するなど、これまで1年間様々な取り組みを実施してきました。
一方で、すでに防災に関心のある人に情報は届いたものの、防災に関心が無く防災用品も家に備えていない人、あるいはウェブマガジンを読んでいない方々や、本当に支援が必要な人たちに伝えたい情報が届けられていないというジレンマがありました。また震災から時間が経つにつれ、人々の心の中の「防災」という意識が薄れていく中で、「防災」だけをテーマに情報発信していくことだけではいけないのではないだろうか、と考えるようになりました。
今や、日本全国の様々な地域で少子高齢化に悩まされています。大都市圏ではコミュニティ意識が薄れ、近くの人たちとの顔が見える関係が築きづらくなっています。しかし、各地ではそうした問題意識を持ち、解決に向けて政治行政の立場だけでなく、民間の立場、あるいは個人で動き出しているプロジェクトがいくつもあります。一方で、問題意識を持ってはいるものの、どういった方法ややり方がいいのか分からない方々も多くいます。
防災の解決とは、つまり地域やコミュニティの力で解決できる問題も多くあります。防災という直接的な視点だけでなく、各地で行なわれてる共助の関係性をつなぐコミュニティデザインを基盤に、「防災」を各地で見直されているまちづくりの取り組みとして語ること、またコミュニティデザインの成功事例などを紹介しつつ、その過程で起こる様々な問題や衝突、苦労とあぶり出し、これからこの分野に関わっていこうとするあらゆる人たちにとって意味のある情報を発信しこうと、仲間と共に考えました。そこで、これまでの防災情報マガジン「Standby」という名前から、あらゆる街のことを伝え発信する媒体として、ストレートに「マチノコト」という名称にリニューアルすることとしました。
今回のリニューアルに際して、まちづくり全般についての記事を執筆し、ワークショップの実践をするなどコミュニティデザインをサポートする活動をしている編集者のモリジュンヤや江口晋太朗、さらにスタンバイの設立メンバーである入山忠、武田芳幸と共に、スタートを切ることとなりました。今後、私たちメンバーを中心に、様々な活動を行っていきます。ぜひご期待ください。
まちづくりやコミュニティデザインに関心のある層、あるいは地域で何かしらの取り組みをしている人たちに届く情報を充実させ、その中に「防災」を取り込み、地域のことやコミュニティについて発信していくための活動を、今後展開していきます。都市の中のコミュニティデザインが中心ですが、国内外の地域における事例も積極的に紹介していきたいと考えています。少人数での運営ながら、なかなか全国に知られていない地域の情報を積極的に発信していきたいと考えており、ぜひ興味のある方や地域のことについて取材をしたい方は、一緒にマチノコトを作っていきませんか。
スタンバイという名称は、メディア名から法人格として、今後は防災だけでなくまちづくりに関する取り組みを行っていきます。法人格としてのスタンバイは「将来の震災にも十分に対応できる「サバイブする(生きのびる)個人」と、「助け合いのつながり(コミュニティ)」づくりに役立つ情報を発信すること。また、ワークショップや講座、イベント、企業向けセミナーや行政支援などを通じて、コミュニティデザインを行うリーダーの学びに貢献すること」をビジョンに掲げ、「つなぐ、つくる、つたえる」をテーマに活動していきます。
「つなぐ」は、イベントやワークショップなどを通じて企業やNPO、自治体、町会等によるネットワークを構築すること。
「つくる」は、企業やNPO、自治体、町会等による連携を生み出す仕組みをつくり、助け合いのコミュニティをつくること。
「つたえる」は、防災も含めた個人や企業のグッドアクションやコミュニティづくりに役立つグッドアイディアをシェアすること。
事業者や自治体向けのコンサルティング、それに日本財団と連携した避難所運営訓練や「都市生活を考えるフューチャーセンター」の運営など、すでに動き出している活動がいくつもあります。これからは、一部会員制度も取り、会員向けの情報発信や各種セミナーなどの充実も図っていきたいと考えています。
今後とも、新しくなったマチノコト、そしてスタンバイを、よろしくお願いいたします。
(記事構成:江口晋太朗)
横尾俊成
1981年神奈川県横浜市生まれ。コミュニケーションの力で日本のNGO・NPOや地域盛り上げたいと2005年4月、広告会社の博報堂に入社。「会社もまちに貢献するべき」との思いから、
仲間と「グリーンバード赤坂チーム」を設立し、リーダーを務めた。2010年10月、博報堂を退社し、NPO法人グリーンバードの代表に就任。まちにある様々な問題を解決するためには、これまで社会の仕組みをつくってきた組織の内側から変えていくべきだとの思いから、地盤、看板、鞄何もないところで港区議会議員に立候補。初めての選挙で当選する。現在、まちの課題を、若者や「社会のために役立ちたい」と思う人々の力で解消する仕組みづくりをテーマに活動していている。第6回マニフェスト大賞受賞。月刊『ソトコト』で「まちのプロデューサー論」を連載中。
HP:http://www.ecotoshi.jp
Twitter: @ecotoshi
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