2016.3.18
「地域を支えるのは若者である。」 町の未来について考える際に、そんな言葉がよく聞かれます。
地域を持続させるためには、若い人たちの力が必要不可欠であり、彼らが暮らしを成り立たせるためには、「働く」ことが求められます。
皆さんは、「若年無業者」という言葉をご存知でしょうか?「暮らし」とセットで当たり前のように語られる「働く」ことですが、働くことが困難な若い人たちもいるのです。
「若年無業者」とは、非労働力人口のうち、15~34歳で家事も通学もしていない人々を指し、平成27年の「子供・若者白書」では、全国で56万人の若者が、「若年無業者」と言われています。
「若年無業者」は、就職希望を表明していない「非希望型」、就職希望はあるが、求職活動は行っていない「非求職型」、求職活動を行っている「求職型」の3つに分類されます。
若者就労支援の現場では、「非希望型」が「非求職型」へ、「非求職型」が「求職型」へ向かう支援が問われているそうです。
2005年頃から日本で使われ始めた「ニート」という言葉は、メディアにおいて誇張的に扱われ、親のお金で楽をして働かずに暮らす若者というイメージを植え付けられました。
実は、そういったイメージで語られる若い世代はごく一部。精神的な問題や身体的な問題から、働くことに悩み、もがく若い世代は、メディアのイメージに隠れ、苦しんでいるのです。
私たちが暮らす地域にも「働く」に困難を抱える若い世代はいるかもしれません。もしそんな彼らと関わることがあるとしたら、何が出来るでしょうか。
昨年11月に、奈良県では「働きたい!ワカモノ人生相談所in奈良」という場所がオープンしました。奈良県が行う若年的職業的自立支援事業及び若年者雇用対策推進事業として、NPO法人「スマイルスタイル」に受託して行われています。
平成24年就業構造基本調査によると、奈良県の若年無業者の数は推計8300人と多く、人口当たりの若年無業者数が2.9%と全国で8番目となっています。ですが、県内では就労できない様々な課題を持っている若年無業者に対して、職業的自立を支援できる団体が少ないという問題を抱えていました。
「働きたい! ワカモノ人生相談所 in 奈良」では、「働くこと」に悩む15~39歳のワカモノに対し、”人生相談員”として、キャリアカウンセラーや企業、市民団体の方々、地域のおっちゃんやおばちゃんなど、さまざまな知識や技術を持つ奈良に所縁のある人たちがサポートを行っています。
地域における人生相談員の増加は、支援施設に足を運ぶきっかけや身近な環境でロールモデルを見つける機会を生み出すことに繋がり、若者と地域の人々が一緒になって、奈良公園のゴミ拾いやゲストハウス改修、商店街のイベントスタッフを行うなど、地域との触れ合いが生まれているそうです。
しかし、約8300人いると言われる奈良の若年無業者のうち、実際に「働きたい!ワカモノ人生相談所 in 奈良」に登録し活動している人は約45人(2016年2月末時点)ほど。
「働きたい!ワカモノ人生相談所 in 奈良」の趣旨を理解し、若者と相談所を繋ぐ人生相談員を増やすことが必要不可欠になっていました。
奈良では、 「『人生相談員』50人大会議!」と称して、ワカモノ応援に興味のある人を対象に、若年層への就労支援について考えるイベントが行われました。
同イベントでは、「ワカモノと『はたらく』の変化」をテーマに、真言律宗海龍王寺住職の石川重元さん、元プロサッカー選手であり、JFL(プロサッカーリーグ)に所属する「奈良クラブ」でGMを務める矢部次郎さんによるトークイベントも開催。
今回の開催の経緯を、トークイベントの司会を務めたNPO法人スマイルスタイルの代表塩山諒さんはこう話します。
塩山:「僕たちは、NPO法人スマイルスタイルの活動として、大阪で『ハローライフ』という民間の就労支援施設を作っていて、その構想・設計を行った際に参考にしたのが、お寺や『Jリーグ100年構想』でした。
『奈良クラブ』は、地域密着型・利縁先行型で理念がしっかりしていて、求心力があり、ソシオやサポーターという形で、地域の人たちが、自分に出来ることをリソースとして提供していた。
お寺も、寺子屋や若者の人生相談、就労支援など、公的なサービスを補完する役割を持っていた。奈良県が、県をあげて若者の就労支援を行おうとするなかで、若者支援の次世代の形をお話出来ないかと企画しました。」
2006年「奈良にJリーグを作る」ことを目標に、故郷奈良に戻り、2008年に奈良クラブを設立した矢部次郎さん。
2011年に現役を引退して以降、Jリーグ昇格を目標にすると同時に、園児から社会人、障がい者までは楽しめる総合型地域スポーツクラブを形成し、「ソシオ」と呼ばれる奈良クラブの会員は約600名にのぼります。
華やかに見えるサッカー選手ですが、サッカーだけで食べていけるのは一握りの選手。奈良クラブの選手もほとんどが午後から奈良の企業で仕事を行い、プロ選手やJリーグを目指しています。
矢部さんは、選手と地元企業の就労のマッチングを行い、地元企業30~40社へ選手を送り込んでいるそうです。
矢部:「僕は現役時代、J1、J2、JFLのクラブでプレーしていたんですが、プロでやっていたときは、お金を貰えなくなったら、辞めなければいけないと思っていました。
だけど、自分で生活が出来れば、いつまでも選手としてプレーが出来るという発想に変わっていったんですね。そのなかで選手の就労支援を始めました。
今延べで言うと、30~40社ぐらいの地元企業さんに選手を送り込んでいますが、サッカー選手を引退した後、そのまま仕事を続けている者もいますし、奈良クラブも、引退した選手を雇用しています。
奈良に集まってきた、チャレンジ精神のある若者たちが、そのまま仕事をし続ける例がどんどん出てきているので、それを続けていきたいですね。」
奈良クラブは、クラブに携わった人間が地元企業で活躍したり、社会で活躍したりすることを活動の目的としており、子どもたちの育成にも力を入れているそうです。
平成2年から海龍王寺住職を拝命し、地元「ならどっとFM」でのDJ、法話動画のWeb配信、SNS発信など、時代の変化を受け入れた「新しい仏教のありかた」を探りながら活動される石川重元住職。
住職のもとには、さまざまな方が相談に訪れるそうですが、その理由はどこにあるのでしょうか。
石川住職:「お寺は、中立、公平という意識があるのかなと。誰かに言ったら自分の話が漏れるかもしれへんけど、坊さんやお寺が相手やったら、話が他に漏れないという安心感があると思うんですよ。
身近だと話せないが、全く知らない赤の他人だったら話せると言うことがある。そういった方々がお寺に来られるのかなと。」
石川住職は、若者支援に最適な仏教用語も教えてくれました。
石川住職:「真言宗の宗祖である弘法大師が記された性霊集(しょうりょうしゅう)の中にぴったりなものがあります。
『心海岸に達せんと欲(おも)わば、舟に棹(さお)ささんには如(し)かじ』という言葉があるのですが、『心の海岸(彼岸)に達して悟ろうと思うのであれば、まず船に棹をさして、漕ぎ出さなくてはならない』と説いていて、目標を達成しようと思えば、動き出さないと始まらないという言葉を仰っているんですね。
これは、全ての事に通用するのではないかと。一歩踏み出すだけで周りの景色は変わる、そんな思いを自分に言い聞かせています。」
トークイベント終了後には、与えられたテーマで席替えを繰り返しながら話し合うワールドカフェ形式で、集まった参加者がそれぞれのリソースを生かし、人生相談員として何が出来るのか考える時間が持たれました。
「生きるように働く」、「どこで働くかより誰と働きたいか」など、仕事観に関する意見も出され、参加者1人1人が、自分事として「就労」について考えていたようです。
私たち1人1人の仕事は、誰かの視野を広げる影響を持っていて、その背中が若者の一歩を引き出すのではないかというような意見も寄せられました。
イベント終了後には、人生相談員として関わることを希望する方も多く見られ、さまざまなバックボーンを持った人生相談員の増加によって、就労に悩む若者と「働きたい!ワカモノ人生相談所 in 奈良」が、より結びついていくのではないでしょうか。
3月19日(土)には、「人生相談員50人大会議」の第2弾として認定NPO法人「育て上げネット」の工藤啓さん、社会学者の西田亮介さんをゲストに、最先端の若者支援を考える場が企画されています。
「働きたい!ワカモノ人生相談所 in 奈良」で人生相談員として活動することに興味を持っている方はもちろん、自分の住む町で若い世代に対してどういったサポートが出来るのか考える絶好の機会です。
1人1人の立場から、どんなアクションを取ることが出来るのか、考えてみませんか。
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