マチノコト

2014.9.26

ヘルスリテラシーを向上させ、インテリジェンスの共有を − まちづくりを「健康中心」で考える〈後編〉【イベントレポート】

注)この記事は東京大学にて公開シンポジウム「健康づくりを核に地域づくり戦略を描こう 〜経済中心の活性化から暮らしの活性化へ〜」のイベントレポートの〈後編〉です。〈前編中編〉の概要は以下をどうぞ。

〈前・中編〉のまとめ

  • 「健康」を切り口にしたまちづくりの取り組みが生まれはじめている(ef:バンクーバー市A Health City for All)ので、日本でやっていくためにはどうすればいいか?を考えよう。
  • 「不健康」を個々人のせい、にしたり、社会のせいにしたり、するのではなく、両方の視点で考え、アプローチしていくことが重要。
  • 他者と、どうやったら健康になれるか、という情報を共有すること、や、ヘルスリテラシーの高い人とつながることなど、多様な人同士で「健康」を介して繋がる場づくりが必要になってきている。
  • 実際に対話の場に参加した人の変化を調査した結果、質の高い知識を得られること、当事者の話を聞けること、そして、様々な価値観・見方に触れ、自らの考えや立場を自己省察する機会となり、違う立場の人への理解が進んだ、などの変化があることがわかった
  • 地域の実例では、地域での場づくりをきっかけに地域に埋もれていたキーパーソンの方たちの発掘が促され、信頼のあるチームができ、アイデアを実現(商品開発)したり、と地域産業への貢献にも繋がった。

ヘルスリテラシーが低い日本

聖路加国際大学の中山教授とみんくるプロデュースの孫さん二人のプレゼンテーションを終えたところで、広石さんを入れた3人でのパネルディスカッションが行われました。

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まず、中山さんが、日本人のヘルスリテラシーの低さを指摘し、問題提起します。

中山「「健康」を目指して、多様な人との協働をコーディネートできる専門家って今ほとんどいないし、そもそもヘルスリテラシーが高い人ってのも少ない。そのためには、もっと小さい頃からの教育が必要。日本では、社会のしくみとか街がどうなっているかとか、健康との関連ではほとんど教育されていない。

最近衝撃的だったのが、EUのヘルスリテラシーの測定ツールがあって、それで日本で調査してみたいんですけど、日本はヘルスリテラシーがかなり低かった。でも、だからこそ、みんなできない・わからないっていう前提で、じゃあ、色んなことが元々できない多様な人たちで何ができるか、って対話が必要なんじゃないかって、感じます。」

すかさず、広石さん。

広石「ヘルスリテラシーが低いっていうけど、日本って、健康番組があるし、ネットでも健康情報がたくさん流れている。若い子も見ているはず。海外に比べて、情報自体が出ていないというならわかるけど、情報はたくさん出ている。そうなると、情報があることとヘルスリテラシーが低いってこととの関係ってどういうことなんでしょう?」

中山「日本のネットとかテレビの健康情報の信頼性は全体としては決して高くないと思います。少なくとも英語で見られる健康情報のネット環境より、日本のネット環境ってものすごく見劣りする。

だから、色んな情報を見つけられないという割合も日本は圧倒的に高くて、信頼性も見分けられない。ただ、実際には、保健医療の関係者が信頼性の高い情報を出していないのか、というと出している人もいるんですけど、それをまとめているところがないんですよ。」

インフォメーションからインテリジェンスの共有へ

中山さんは海外の事例を引き合いに出しながら、日本の現状について語ります。

中山「アメリカでは、国立医学図書館(NLM:National Library of Medicine)があって、専門的な情報をわかりやすく整理して、探せるようにしてあるサイトがある。医学系の司書の人たちが、ちゃんと信頼出来る情報を集めて、検索すればヒットするようにしている。

もう一つ、ヨーロッパの人は、家庭医がいて、家庭の健康教育、生涯の健康教育を少なくとも日本以上にやっている。だから、どこに行けばどういう情報が得られる、とか、最初に駆け込むところはどこか、ってのが教育されている。でも、日本人はパッと思いついて、サッと行動できる状況にはない。」

広石「「ついつい情報発信がないじゃないか」って思いがちだけど、そうじゃない。情報はあるけれど、信頼性に欠けていたり、情報が溢れてきたときにどう判断していいかわからなかったり、という状況。だから、情報が足りないから情報を出す、というところではなく、いい情報源の構築や信頼の構築の仕方が課題なんですね。」

続いて孫さん。医師の視点で日本の問題点を指摘と可能性を語ります。

孫「日本の医師は忙しすぎて、時間も避けなくて、みんくるカフェをやっていただける方の中にも医師の先生も多いんですけど、相当忙しい中で余暇を使って、やっている。なので、矢田さんのような他職種の方がもっと活躍して欲しいと思っている。

昨年に来日したヘルスプロモーションの先駆者イローナ・キックブッシュ博士に言われたんですけど「日本にこれだけコンビニエンスストアにあるのに、なんでそこでヘルスプロモーションの機能を担わせないんだ、と言ってたんですね。

ドラッグストアもあれだけあって、薬剤師もいるんですけど。だから、そういう地域のリソースを活用して、他職種の方にも活躍してもらうカタチで、地域で気軽に健康について相談できる場が増えることを願っております。」

話はいかに信頼に値する情報を獲得できる場・コミュニティのしくみをつくっていくか、という話に。そこで、中山先生が、日本のQ&Aサイトの動きに注目します。

Q&Aサイトのような場を地域につくる

中山「そういった意味で、Q&Aサイトやコミュニティサイトはものすごく賑わっている。Q&Aサイトはものすごく賑わっている。世界中こんなにいっぱいの健康相談があるところはないでしょう。すべてが信頼できる情報ではないけれども、人から直接聞く経験者の話とか、自称医療者の話は、みんなで色々やりとりをしている中で見ると「あぁ、こうだな」って信頼できる情報に思える。

だから、みんな来るのだと思います。だから、情報は信じられるものはなかなかないけど、人と直接やりとりするってことに関しては力を感じます。だから、地域にああいう場をつくる。コンビニで動いているとこもありますよね。薬局では、薬局カフェってやっているとこも出てきましたし。

ネット上はQ&Aサイトで盛り上がっていますけど、やはり、地域で人と人が知恵を持ち寄ってやろうっていうのがいいかな、と思います。いずれにせよ、みんな主体的にできる対話の場づくりはやっていただければな、と思います。」

最後に、広石さんがまとめます。

広石「お二人ともありがとうございます。最後の話でいくと、情報っていうと「インフォメーション」もありますけど、もう一つ「インテリジェンス」っていう情報もある。コピー可能な情報が「インフォメーション」ですよね。日本は確かに情報に溢れているんですけど、どこか信頼感がない。その中で「インテリジェンス」。

ある意味で、人の判断を通して発している情報が「インテリジェンス」。そっちの方が今必要とされている。その中で、今日の後半のワークショップでは、こういうことが問題なんじゃないか、こういうことが必要なんじゃないのか、ってところで、みなさんで考えていきたいと思います。」

後半はカフェ型トーク。各テーブルで、医療従事者やまちづくりに元々関わっている参加者達が、それぞれの経験やアイデアを共有しながら、健康のまちづくりを実現させていくためのアイデアを出し合います。

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(福岡から参加されているNPO法人ドネルモの宮田智史さん。)

「楽しい」から「変えたい」へ

ワークショップが終わり、最後に中山さんから今日のシンポジウムを振り返ってのコメントをもらい、広石さんがまとめます。

実践と研究と両方が連動していくといい分野だと思います。なかなか研究だけではうまくいかない。リアルの社会の生態的な視点で、データも取っていかないといけないし、日々こういう対話をしながら、こういうデータが足りないんじゃないか。

こういう説明したいけど、こういうデータはないだろうか、などそういうことで協働していく。みなさんの実践の現場でこういうデータを出して欲しいと出して行くこと、そういうことも大事なんじゃないかな、と思います。

最後に孫さん。

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やっぱりこういう話は楽しいな、と(会場笑)。でも、楽しいの後に、本当に変えたいと思うと、色んなハードルとか問題があります。みんくるカフェも全国に広まっていますけど、さらにもう一歩、社会に本当にインパクトを与えたりとか、みんくるカフェ的な対話の場をもっと機能させるには、もっともっと工夫が必要かな、と私は考えましたので、来年ぐらいにはまた新しいアイデアを出していけるのではないか、と思っています。どうもありがとうございました。

今回のシンポジウムは、現在のまちづくり、地域活性化が知らないうちに「経済中心」と考えていることを問い直し、新たに「健康」という切り口で考えたものでした。

「健康」を切り口に考えることで、まちづくりに医療従事者という新たなステークホルダーを巻き込んでいき、また、実践者だけでなく、研究者を巻き込んでいくことで、広さと深さのある対話の機会だったと思います。このような開かれた場づくりは、地域の問題が複雑化している現代では、一層重要性が高いと思います。

しかし、その分、高度な場づくりの技術が求められます。例えば、多様な立場の人同士がフラットに建設的に語り合える場〈研究者は知識を与えるだけの立場にならず、実践者は自分の経験から来る考えに固執しない、経験の少ない者も参加できる場〉というのは、そんなに簡単なことではありません。

ですが、「健康」という新鮮な切り口を提示した後に、具体的な海外の事例を導入で紹介することで、様々なステークホルダーが同じ理想像に向かって話し合っていくことができたように思えます。他地域での取り組みを学び、自分の理想イメージに重なる取り組みを紹介した上で、自分たちの場所ではどのようにできるか、を考える場づくり。

マチノコトでは、今後とも様々なまちづくりの取り組みを紹介していきます。良い事例を知ってもらって、地域のことを様々な立場の人が対等に話し合いをできる場づくりが今後、増えていくといいですね。

herume

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