マチノコト

2016.1.19

仙台発、土地に生きる人々のことを伝えるオンライン新聞「The EAST TIMES」が考える外に向けての情報発信

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第二次安倍内閣が掲げる主要な政策のキーワードとして「地域創生」を掲げ、以前にも増してまちづくりの必要性が叫ばれるようになってきました。地域が抱える課題の中でも、大きなハードルとなっているのが、地域からどのように情報発信をしていくかということ。

私は宮城県出身で、東北の外から来た友人を案内することがあります。そのとき、彼らは私が気にとめていなかったものに関心を抱いてくれます。

人は、自分の身近なところにある魅力を見過ごしてしまいがち。それは地域の魅力も同様です。現在、様々なメディアが行っている、地元の人が地元の情報を発信することも必要です。ですが、外からやってきた人が気づいた地域の魅力を、より広い対象に向けて発信するということも必要なのではないでしょうか。

宮城県仙台市で行われているイベント「ローカルメディアネットワーク」は地域からの情報発信について実践的に考えられる場の一つ。市内にあるコミュニティスペース「ファイブブリッジ」で、毎月第1月曜日に定期的に開催されています。

地域からの情報発信に取り組んでいるゲストを呼び、参加者とともにメディアについて考えていることを話し合います。インターネットの普及により多様な情報発信が当たり前に行われるようになった次世代の『地域からの情報発信と記録』を考え、学び、実践していくことをねらいとしています。

10月のイベントにゲストとして登壇したのは、「The EAST TIMES」編集長の安藤歩美さん(28)と代表の中野宏一さん(31)。「The EAST TIMES」は、2015年6月に宮城県仙台市でスタートしたウェブメディアです。「そこに生きる人々を伝えるオンライン新聞」をコンセプトに、全国的なニュースの解説からローカルの面白ネタまで多岐にわたって情報を発信しています。

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メディアといっても、「The EAST TIMES」独自では媒体を持っていません。ニュースメディア「THE PAGE」に記事発表の場を間借りする形で活動をしています。

記事は「THE PAGE」と「Yahoo!ニュース」に掲載。掲載された記事は「Livedoorニュース」「BLOGOS」「マイナビニュース」に転載されることも。幅広い媒体で読むことができるので、みなさんも一度は「The EAST TIMES」の記事を読んだことがあるかもしれません。

若くして独立しインターネットメディアを立ち上げた二人は、地域からの情報発信についてどのように考えているのでしょうか。

東北から全国ニュースを創り、発信する

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「The EAST TIMESで取り扱う内容は主に3つのジャンルに分けられます。

1つ目が全国ニュースの解説や深堀り。インターネットでは取り上げられる情報量が紙に比べ裁量があります。また決まった時間にしか情報発信できない紙とは違い、ネットでは24時間いつでもニュースを打ち出せるため、より早く情報を読者の手元に届けることができます。速報性と情報量という面でネット記事が持つ柔軟性を生かし、独自の目線でニュースを解説します。

2つ目が東日本大震災の話題を取り上げること。震災関連の記事を書く際は、必ず動画を入れるようにしているそうです。テキストだけの記事に比べ、読者の視覚・聴覚に強く訴えかけることができ、説得力が増すとのこと。現地で撮影した写真を集めた特集を組むこともあり、ビジュアルコンテンツをうまく活用しているそうです。

安藤さん:「現地に住んでいれば、復興がどのような状況で進んでいるかを肌で感じることができますが、一歩被災地の外に出ると『もう復興したよね』と思っている人も少なくありません。確実に、人々の記憶は風化しているんです。被災者というひとつの枠でとらえるのではなく、震災ひとつとっても、一人ひとり違った思いや記憶をもっている。それを目に見える形で残していくことはできないか、と考えました」

3つ目が東北を中心とした全国各地の地域ネタ。特に反響が大きかった仙台市天文台で販売されているお菓子「アースキャンディー」の話題をはじめ、地元の面白い話題を取り上げ、発信しています。

中野さん:「全国ニュースよりも、地域ニュースの方がおもしろいってことが多々あるんですよね。独自の視点が盛り込まれているから、違う地域に住んでいる人がニュースを見ると新鮮味がある。ニュースを見て新鮮さを感じた人が、実際にその土地に出向くきっかけになるかもしれません。しかし、普段こうしたネタは新聞の地域面にしか載らない。そうなると情報を知ることができるのは、読者である地元の人々だけ。外部の人は知る機会すらないんですよね」

「The EAST TIMES」は、地域ネタでも全国ニュースとして伝えるということに重きをおいているそうです。こうした取り組みのきっかけは、2人の純粋な好奇心からでした。

安藤さん:「地域の様々なスポットに行き、意識的に周りを見渡してみると、普段生活しているときに見過ごしてしまっていそうな、おもしろいものにあふれている。私たちは純粋に『こんな面白いものが東北にはあるんだよ』と伝えたいんです」

中野さん:「インターネットが広く普及した今、8割から9割の情報が検索によって手に入れることができる、と言われています。しかし、裏を返せば1割から2割の情報はインターネットで見つからないということです。記者が現地に足を運び、直接インタビューすることで得られる生の声。

インターネットを使って裏をとれなかった情報こそが、現代における報道の価値だと思います。現場に行って読者の目となり耳となり、自らの言葉で広く発信していくことが求められているんですね」

取材をせずに、既出の情報を無断でコピーアンドペーストしたような記事が多数生み出されているインターネットメディアがはびこる中、「The EAST TIMES」は現場主義を貫いています。インターネットの拡散力を生かしつつも、新聞と同等のクオリティを保つため、データチェックには1記事平均5時間かけるそうです。

地域からの情報発信に新しい風を送り込もうとしている二人は、どのような経緯をたどり、今の活動を始めるようになったのでしょうか。

「The EAST TIMES」編集長の安藤歩美さん

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千葉県で生まれ育ち、大学・大学院時代は東京で過ごした安藤さん。東北には縁もゆかりもなかったと言います。当時は国際協力に関心があり、卒業後も外交官になろうと考えていたそう。

しかし、大学院在学中に東日本大震災に伴うボランティア活動のため、宮城県女川町へ足を運んだことがきっかけで安藤さんの価値観が大きく変化します。

安藤さん:「ボランティアを通じて地元に住んでいる一人の男性と話す機会がありました。その方は奥さんと娘さんを震災で亡くされていました。辛い状況に置かれているにも関わらず、「それでも負けてられないよな」と涙をこらえながら力を込めて話をする姿は今でも忘れられません。生きることに真摯に向き合う様子を見て、人間をじっくりと見つめ、描いていきたいと思うようになりました」

大学院卒業後は某全国紙に就職し、2年間新聞記者として仙台で震災報道を中心とした取材・記事執筆を行っていました。仙台を拠点に被災地を駆け回るうちに安藤さんにとって「東北」はかけがえのない存在になっていきました。若くして独立を決意した背景には何があったのでしょうか。

安藤さん:「東北で深く掘り下げて取材していきたいテーマを見つけたんです。でも会社勤めをしながら追求するのではいずれ限界が来るだろうと感じました」

記者として地元の人と関わっていくことで感じたものも理由としてあるそうです。

安藤さん「記者の仕事を通じて東北にはいいものがたくさんあるのに、地元の人はそれに気づいていないと感じました。関東で生まれ育った『よそ者』の私だからこその視点を大切にして東北の魅力を発信していきたいとの思いでTHE EAST TIMESを立ち上げました」

中野宏一さん 「The EAST TIMES」代表

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中野さんは秋田県湯沢市で生まれ、小学校からは埼玉県所沢市に住んでいました。東京の大学・大学院に通い、法律や政治を勉強していました。

大学の専攻とは別に、メディアと政治の関係にも関心を持っていた中野さんは新聞社に就職。3年間校閲の仕事をした後、ソーシャルメディア分析を行うITベンチャーに転職します。

2013年の参院選でネット選挙が解禁された際には、Twitterから世論を分析するツール開発に携わりました。

仕事に没頭していたものの、働きすぎでドクターストップがかかり仕事を辞めざるを得なくなります。退職後は、フリーランスとしてPRコンサルタントの仕事を請け負っていました。そんな中、大学の後輩にあたる安藤さんに誘われ、2人でThe EAST TIMESを立ち上げます。それまであまり関わってこなかった地域メディアに携わるようになったのはなぜでしょうか。

中野さん:「物心ついたころから、東北のいいところが外部に伝わっていないということにもどかしさを感じていました。同時に、外の人から『東北ってダサいよね』と言われるたび悔しかったんです。フリーになったタイミングで安藤から話が来たので、『これは』と思い関わるようになりました。同時に、今までの経験を活かして地域のブランド化という側面からもお手伝いしたいなと考えました」

東北を伝える地域の担い手としてできることを

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「The EAST TIMES」を立ち上げてから半年が経ち、日々手探りで活動しながらも、確実にメディアとしての手ごたえを感じているようです。

安藤さん:「Yahoo!という媒体力の大きさあっての部分もありますが、記事への反応はすさまじいものがあります。記事が拡散され、コメントが付く。私たちが書いた記事にどのような評価が下されているかが直接目に見えるので、反応がいいときはやりがいを感じます」

着々と読者数を伸ばしているThe EAST TIMESの今後の展望はどのように見据えているのでしょうか。

中野さん:「現在行っているインターネットにおける報道の他に、メディアコンテンツの充実、ソーシャルメディアを使ったコンサルティングサービスを加えた3本柱で事業を展開していきたいと思っています」

独自の媒体を持って情報発信をしていくことも今後の構想にはあるそうです。しかし、実現のためには乗り越えるべき課題も多くあります。

安藤さん:「現時点では私と中野の2人だけで取材・記事執筆をして毎日更新している状態なので、とてもじゃないですが構想中である他の事業に取り掛かることができません。時間をたっぷりかけて取材・執筆・校閲をしているので出せる記事の本数も限られてくるし、体力的にも厳しいものがあります。とにかく書いてくれる人が足りない。資金面に余裕はないので薄給にはなってしまいますが、ライターさんが今すぐにでも欲しいです。素材さえ撮ってくれば編集できるので、どんなレベルの人でも大歓迎です」

マネタイズの面でも課題は山積みなようです。

安藤さん:「今やっていることは、インターネットを通じた情報発信だけなんです。自社サイトがないので、広告収入があるわけでもありません。単純に記事を書いて原稿料を各媒体からいただくだけ。先ほど中野があげてくれた3本柱で活動を展開していく予定ではありますが、模索中ではっきりしたことは決まっていないんです。でも、報道って儲からないものなんです。今は、どんな切り口で記事を書けば、東北の魅力が少しでも多くの人に伝わるか追及していきたいです。初心はいつまでも忘れたくないですね」

中野さんも今後に向けての決意を力強く語ります。

中野さん:「東北の人って、いい意味でも悪い意味でも控えめなんです。だから、素晴らしいものをつくっていても表立って出てこない。ですから、少しでも東北のいいところが伝わるような記事をかき続けていきたいですね」

地域での情報発信のあり方を自分事として議論する時間

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「ローカルメディアネットワーク」には、カフェを経営しながらワークショップを開く人、フリーペーパーで街の魅力を発信している人など、既に情報発信を自分の手で始めている人から、様々な生き方に触れることでこれからの生き方を模索したい会社員や大学生まで、年代やバックグラウンドの多様な人たちが「地域からの情報発信」を共通項に集まりました。

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参加者間では、トーク終了後も地域におけるメディアのあり方について活発な議論が交わされました。多くの質問が中野さん・安藤さんに投げかけられ実りのある時間を過ごすことができました。

地域内に向けて情報を発信することも重要ですが、地域から全国に情報を伝える人や場ができることで、外部から地域への興味関心をもってもらうことにつながります。興味を持った人が、地域に足を運んで土地の魅力に気づき、発信してまた新たな人を呼び込む。そんなサイクルを生み出すための情報発信が、今の時代は求められているのだと思います。

みなさんもできることから、少しずつ、取り組むことの幅を増やしていってみてはいかがでしょうか。

鈴木里緒

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1993年宮城県出身。現在は、仙台市に拠点を置きながら、山形の大学で学んでいます。大学では商店街の活性化をはじめとするまちづくりについて学んでいます。働き方や地域からの情報発信について関心があります。

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